第12話 背後から、刺す
「まあ、間違いなく『ダンジョン攻略マシナリー』が使われるでしょうね」
セシリアの言葉を聞き、俺は「だんじょんこうりゃくましなりー?」と首を捻った。
それに対し彼女は「まあ、そういう冒険者を頼らなくてもダンジョンを攻略出来る代物をエデンちゃんは開発したんですよ」と答える。
「兎に角昔からおもちゃを作るのが大好きな子でしたから、彼女は。それでちょっとした小遣い稼ぎをしながら、その結果一つの自治区を作るまでに至ったのですから凄いです」
「ふーん、それでその『ダンジョン攻略マシナリー』ってのは、どれくらい凄いんだ?」
「具体的に言うと、数でダンジョンを総当たりするっていう感じの代物ですね。時間は掛かりますが、理論上ほとんどリスクもなくダンジョンを制覇出来る、筈です」
「筈、とは?」
「まあ、当たり前ですけど『ダンジョン攻略マシナリー』も『モノ』ですから、壊れたらその分の資源が減るって事です」
「あー」
ちなみに。
こちらのダンジョンもそこら辺は似たようなものであり、例えばモンスターは倒されたりしなければポイントに戻せるが、倒されてしまえば霧散してしまう。
そしてダンジョンが破壊されたら――そもそも壊されること自体前代未聞なのだが――それを直すのには結構なポイントが必要だった。
具体的に言うと、現在手元にあるポイントは『9000』ポイントなので、セシリアを倒す事によって獲得したポイントがあったとしてもかなり大きな損失をしてしまったと言える。
「その『ダンジョン攻略マシナリー』ってのはダンジョンを壊したりしないんだよな?」
「そもそも私の知る限り、ダンジョンを破壊出来るのはわたくしぐらいですね」
「それは良かった」
「それに、エデンちゃん自体もその莫大な資産と知能で英傑の一人として数えられていますが、本人の力はそこそこです。多分、骸骨シリーズでも倒せるんじゃないですか?」
「なるほど、それは良い事聞いた」
なんていうか、知能キャラのテンプレみたいな奴なのか、そのエデンと言う奴は。
だとしたら、警戒するべきは正しくその『ダンジョン攻略マシナリー』なのかもしれないな。
そしてそれは総当たりで確実にダンジョンを攻略するようになっているらしい。
尚且つ数が多いのだとしたら、普通に倒していくのも良いが遅延行為を取るのも重要かもしれない。
セシリア曰く、エデン個人は弱いのだとしたら本人の方を狙ってしまうのも割と手なのだから。
「――と、言う訳で早速攻略が始まった訳ですが」
映像に映し出されたのは五体の『ダンジョン攻略マシナリー』。
それが、機械仕掛けの癖にメチャクチャ人間臭い動きでダンジョンに足を踏み入れ、そしてダンジョン内部を観察し始めた。
……ダンジョンの外を見てみるとそこには結構な数の『ダンジョン攻略マシナリー』がいる。
これは結構、骨が折れそうだ。
「今回はモンスターを設置しないんですね」
「ああ、そもそも『ダンジョン攻略マシナリー』自体、倒してオイシイかどうか分からないからな」
苦労して倒しても、そもそも人間じゃないからポイントが貰えるか分からない。
むしろプラスマイナスで言ったらマイナスになってしまう可能性がある以上、本気を出してあれらを倒しにいく必要はない。
「と言う訳で、遅延行為だ」
と、どうやら『ダンジョン攻略マシナリー』のうち、一体がダンジョンの仕掛けに気付いたらしい。
……ダンジョンの壁をよくよく観察するとあるボタン。
それを慎重に押す――と、そこから斜め方向に新しくボタンが現れる。
『ダンジョン攻略マシナリー』はそれをしばらく観察していたが、しばらくするとそのボタンはなくなり、代わりに先ほど押した筈のボタンが現れるのだった。
これはまあ、察しの通り次々現れるボタンを押していくとダンジョンの先に進む事が出来るようになるというギミック。
ちなみにこちら、あと10個あります。
人間ですら面倒臭くてお手上げになりそうな仕掛け。
『ダンジョン攻略マシナリー』なら時間を掛けて攻略するだろうが、しかしあれらのダンジョン攻略手段は「総当たり」だ。
だから、すべての可能性を逐一潰していく必要がある。
ボタンが消え、新しいボタンが現れたらまたダンジョンの観察から始まる。
もしかしたら途中で最適化を始めるかもしれないが、その時はその時だ。
その前に、エデン本人を討ちに行く。
……実のところ言うと、俺はダンジョンの外に出る事は出来る。
ただ、一時間外にいるだけでポイントを10消費してしまうので、出来れば外に出たくない。
ダンジョンの外にモンスターを出す為には条件が存在しており、まあ、端的に言ってしまえば今のところ俺自身が外に出ない限りモンスターは外に出る事が出来ない。
逆に言うと俺さえいれば外でもモンスターを召喚する事が出来るって事でもあり、アナグマの如くダンジョンに引き籠って『ダンジョン攻略マシナリー』が撤退するのを待つより、虎穴に入るが如く打って出る方が得策だと判断し、そして現在に至る訳だ。
率いているのは、モンスター三体。
三体と言えど、侮れない。
それぞれ『緋色の骸骨』二体、そして魂捕獲能力に秀でたレイスの強化個体、『スナッチレイス』。
勿論『スナッチレイス』も例の如く魂の捕獲に関しては運要素が絡んでくるが、一度成功判定が出てしまえばこちらのモノである。
更には、レイス系統のモンスターは光の下では、消える。
なのでほぼ確実に奇襲を成功する事が出来るのだ。
と、思っていたのだったが。
「初めまして、だね。こうしてダンジョンの主と話す事になるとは思ってもみなかったけど」
……現在。
俺とエデンは向き合って立っている。
ばっちり見つかった。
いや、見つかるまではまだ想定の範疇だ。
『緋色の骸骨』二体に関しても、これらはあくまで囮なので問題ない。
タイミングよく『スナッチレイス』を仕掛けるのが重要だ。
「とりあえず――こう立ち話もなんですし、お茶でも如何かな?」
そう言われ、俺はセシリアの言葉を思い出す。
『エデンちゃんならばやはり駆け引きをして来ると思うけど、基本こちらは押せ押せの姿勢を崩す必要はないと思います』
『彼女は弱いので、だから相手に攻撃させる口実は作れないんです』
『むしろ、大胆に動く姿を見せる事により『大胆に動ける』力がある事をアピール出来る訳です』
『だから、まあ――』
俺は警戒しつつも彼女から紅茶が入ったティーカップを受け取り、それをグイッと飲み干した。
美味しかった。
いや、マジで美味しいな。
ていうかよくよく考えてみると食べ物は愚か飲料を口にしたの、この世界に来てから初めて――
「ぁ?」
視界がぐらっと揺らいだ。
それこそ大胆に。
立っていられなくなり膝をつく俺に対し、エデンは少し驚いたように言う。
「あー、っと。ふ、普通に飲むんだね」
「あ、あががが……」
「うん、いや。でも、私達敵対しているんだし、そりゃあ一服盛る余地があったら一服盛るよ」
「う、ごごごご……」
「あれだよね、そこら辺油断してたって事じゃなくて、多分誰かから唆されたんでしょ? いやまあ、誰なのかは分かるけど」
☆
「てへぺろ」
☆
「いやまあ、せっちゃんって破滅願望があるから、自分が消えてなくなるとしてもその誘惑に勝てなかったんじゃないかな……」
あんちくしょう!
いやまあ、百パーセント信じてた訳じゃないけど、貴重な情報だっていって無意識に信頼しちゃってたわ!
いや良い、こうして一服盛られた以上意識が朦朧としてしまっているが、それでも戦いのゴングは鳴ったんだ。
俺は揺れる意識の中で『緋色の骸骨』に指示を出し――
ば、きぃ……!!!!
遠くで、何かが砕かれる音を、聞いた。
「頭脳担当のひ弱な英傑だけど、この程度の事は出来るよ」
そこも嘘なのかよぅ……!
マジであん畜生、覚えていやがれ……
「ま、良いや――貴方に盛ったのは致死性の毒じゃなくてあくまで麻痺毒。貴方の事は今ここでいろいろと調べさせて貰うよ?」
歪む視界の先で、彼女の瞳がきらりと輝いたような気がした。
心の中を覗かれたような、そんな気持ちが悪い感覚。
そして、次の瞬間だった。
『スナッチレイスの攻撃が成功しました』。
……あれ、『スナッチレイス』に攻撃しろって命令出したっけ?
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