第11話 エデンの攻略

「それで、具体的にどうやって攻略するつもりなのよ?」


 パクパクとエデンが取り出した茶菓のマカロンを頬張りながら尋ねてくるアリスの様子に苦笑いを浮かべつつ、エデンは「その前に」と前置きをする。


「あーちゃんはダンジョンはどうやって成長をしているのか、知ってる?」

「……知らないけど、むしろそんなの誰が知っているというのよ」

「多分一部の人間しか知らないだろうね、緘口令があるし」

「え、そんなヤバそうな内容を私に教えようとしているの貴方?」


 ドン引きするアリスの反応はあえて無視したのか、エデンは特に彼女の言葉に返答をする事なくマイペースに話を続けた。


「これは私が主導で行った実験なんだけど。ほぼ同時期に発生したダンジョンを三つ用意して、それぞれ違う条件を与えて成長の結果を観察したんだ」

「はあ」

「一つは、ダンジョンに人間を触手トラップに設置して1か月待ってみた」

「ちょっと待とうか」


 痛そうに額を抑えながらアリスは尋ねる。


「人間を。あえて。触手トラップにけしかけて。しかもそれを放置したの?」

「そうだよ」

「何故?」

「まあまあ、それはさておくとして」


 彼女は大して気にする事なく話を続ける。


「もう一つは、人間をダンジョン内で一週間おきに殺して、それを一か月続けた」

「うん、待とうか」


 頭を抱えたいという衝動を抑えているような表情を浮かべながらアリスは尋ねる。


「人間を。あえて。ダンジョン内で殺したの? しかもそれを一週間おきにやったと」

「あ、安心して? 触手トラップも、そこで殺した人も、全員終身刑の犯罪者だから」

「……そう言う問題じゃないわよ」

「で、最後の一つは何もしないで放置。攻略者も入れさせないで、本当に何もしないまま状況を維持した」


 それで、とエデンは少し意地わるそうな笑顔を浮かべてアリスに言う。


「答えを最初に言っちゃうとね。ダンジョンの成長にはそれぞれ差異が産まれたんだ。一番成長したのが触手トラップ、次に人を殺した奴、当然のように何もしなかったダンジョンはあまり成長しなかった」

「……」

「つまるところこれらの実験で分かった事というのは、ダンジョンは人間から何らかのエネルギーを搾取している、と言う事。そしてそれらがないダンジョンはあんまり成長が望めないって事だね」


 で、話は戻すけど。

 一度、エデンもアリスと同じように――アリスはドン引きしてマカロンを食べる手が止まっていたが――マカロンを一つ頬張り、破顔した後紅茶でそれを流し込んだ彼女は続ける。


「ダンジョン攻略で、ダンジョンが利用している何らかのエネルギーを枯渇する事を狙うのならば、人間からエネルギーを搾取させる訳にはいかない」

「……でも、それって本末転倒じゃない? 人間が攻略するって言うのに人間は攻略してはいけないって言っているもんでしょ」

「うん、そう言っているの」

「はあ……?」

「だから、ここで登場しますのがわたくしエデンが最近になってようやっと開発する事が出来た代物」


「ダンジョン攻略マシナリーだよ」



 ――と、そんな会話があったのは一週間前。

 既にアリスは『モスキート』を利用して空を飛び待機している。

 そして草原の上に大きめの布を敷いたエデンはその上に座って水筒のお茶を飲みつつ、手に持った半透明のガラス板を覗きこんでいた。

 それこそが彼女が言った『ダンジョン攻略マシナリー』の操作手段である。


「だんじょんこうりゃくましなりー?」

「まあ、簡単に分かりやすく言うのならばカラクリ仕掛けな機械人形だよ」


 アリスの前にその『ダンジョン攻略マシナリー』の小さな模型を見せる。

 それは一言で言うのならば『機械仕掛けの人間』。

 とはいえ完璧な人間ではなく所々に歯車が露出していたり、球体関節であったりしている。

 そんな人形を見てアリスは「ふん」と鼻を鳴らす。


「こんなのでダンジョンを攻略できるとでも?」

「しなくても良いんだよ」

「はあ?」

「さっき言った通り、今回はあくまでエネルギーを消耗させる事が重要だからね」


 彼女は言う。


「ダンジョンは攻略者がいる限り、何かしらアクションを取らなくてはならない。そして私達の能動的な行動を対処しなくてはならない――この関係が成り立っている以上、私達には完全に上下がある」


 そして現在。

 ぞろぞろと件のダンジョン(エデン曰くまだダンジョンではない)エリア21へと向かっているのが、『ダンジョン攻略マシナリー』。

 その総数、50体以上。


「まあ、つまるところこれらで攻略出来なくても良いし、ダンジョン攻略者である冒険者と言うエネルギー補給手段も断ってるから今回成功しなくても『ダンジョン攻略マシナリー』の用意が出来次第、再開しても良い」


 ぐいっとカップのお茶を飲み干し、彼女は不敵に笑う。


「とりあえず、まあ。気軽に遊び感覚でやっていこう」

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