第十四話「冒険者組合.其ノ一」

 ――冒険者組合曨國支部


 受付嬢の栞那カンナは今日も、受付窓口で頬杖をつき退屈そうに玄関を行き交う冒険者達を眺めていた。

 

「あら、いつにも増して元気がないわね」


隣の窓口の受付嬢がそう声をかけた。

 

「だって大した冒険者がいないんですもん、大きい依頼も入ってこないし…」


「この国で腕に自信がある者は大名の下に付くからねぇ、冒険者なんて荒くれ者に好き好んで混ざりに来る人の方が少ないものね」


「強い方も居るんですけど、性格に問題がありすぎますし……」


「ま、最近は若者も少しずつ増えてきたし、その内善良な冒険者も現れるわよ」


 二人がそんな事を話していると、正面玄関の扉が音を立てて開かれた。


「カ、カンナさん!」


 慌てた様子の彼は一栗 由規いちくり よしのり、最近じわじわと実力をつけてきた若手の冒険者だ。


「どうしたんですか、由規さん。何か事件ですか―?」


「事件っていうか……」


 暢気に尋ねる栞那に焦りを湛えた面で何か言葉を吐こうと受付台へ身を乗り出したその時。


 ”たのもー!”


 そんな声と共に再び玄関扉が開かれる。

 そこには……


 巨大な何かが立っていた。


「へ……?」


 しかしよく目を凝らせば、それが巨大な何かを背負った人間であることが分かる。

 その人影はずんずかと大股で広間へ歩入り……


「なんじゃ活気がないのぅ。存外、人も居らんようじゃな」


 "つまらん"、彼女はそう吐き捨てる。


「まぁ良い。其処許、コレの買取を頼む」


 受付の前まで来ると彼女はそう言って背負っていたソレを床に下ろした。

 それと同時に少し床が軋み、広間が揺れた。


「え、えっと……」


「あぁ、軽く血抜きはしておるぞ」


 未だ状況を掴みあぐねている栞那は困惑の顔そのままに固まってしまった。


「ん?……おい、玉梓。本当にここで合っておるのか?この者、随分と愉快な顔で固まっておるが」


 彼女は受付窓口に背を向ける形で誰かにそう問いかけた。

 それに釣られて栞那も玄関の方へ視線を移すと、そこにはまた二つの人影が。

 どうやら背負われていた物に隠れて受付側からは見えなかったようだ。

 その二人は袈裟の女性と小さな女の子であった。


「……大嬢。だから、わえが先に入り仔細を伝えると申したではありませぬか」


「面倒じゃ」


「更に面倒な状況にしたのは大嬢ですぞ?」


 玉梓、そう呼ばれた袈裟の女性は呆れ顔で言う。


「仕方ありません。桔梗、着いてきなさい。大嬢はそちらでお待ちください」


「はいっ!」


 二人は栞那の窓口まで歩み寄る。

 栞那はどこかへ行ってしまった意識を何とか手繰り寄せ、両の手でパシッと頬を叩き受付嬢の自分へと切り替えた。


「はい!冒険者組合曨國支部へようこそ、登録ですか?買取ですか?」


「両方頼み申す」


「承知致しました!ではまずそちらの売却物の解体、鑑定を致しますので解体場へ移動させてもよろしいでしょうか?」


 玉梓は栞那の問いに首肯で返す。


「おい、その解体場とは何処じゃ」


 ずいっと玉梓と少女の間から顔を覗かせて大女が言う。

 それに驚き声が出そうになるのをなんとか押さえ込み、一呼吸置いて栞那は答えた。

 

「一つ隣の平屋が解体場となっております」


「そうか、では儂が運んでやろうかの」


 そう言って彼女は床からソレを軽々と持ち上げ背負うとそのまま出ていってしまう。


「す、凄いですね……」


「曨の剛力武芸者でもあれは中々できないわね……」


 隣の嬢がそうひとつ零した。


「あぁ、大嬢。お待ちを…行ってしまわれたか。仕方ない、桔梗。大嬢に伴して下さい、あの方一人ではまた要らぬ混乱を招きます」


「し、承知しました!」


 玉梓にそう言われた少女はパタパタと草履を鳴らして去っていく。


「ではわえの登録を先に済ませておきましょう、宜しいか?」


「はい、ではこちらに氏名をご記入頂きます」


「承知した」


「ありがとうございます。ではこちらで魔力鑑定を行いますので、その水晶玉に左右どちらでも構いませんので手を乗せて頂けますか?」


「これで宜しいか」


「はい、ではそのまま少々お待ちを」

 

 数秒そうしていると水晶玉が光を放つ。 


「はい、計測完了です。手を離しても大丈夫ですよ」


「さ、如何程かな」


「玉梓さんの魔力量は三六〇ですね」


「平均が分からぬ故、それが多いのか少ないのかわえでは計りかねますな」


「そうなんですね、三六〇というと魔法主軸の冒険者でも中堅位にはなりますね」


「成程、悪くないようで何より」


「新人で三六〇はだいぶ高いですよ、私が見た中でも最高は二三〇位でしたもの」


「なんと、そうであったか」


 少しだけ打ち解けた二人は、解体場からの知らせを待つ間、暫しの雑談を楽しむことにした。

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