虎狩り

アベンジャー政史さん

暗闇より

そこは何処なのか、ピンク色の淡い輝きに充たされた空間であった...

龍雄(たつお)は両膝を抱え、身体を丸くした状態でその空間に浮かんでいるのだった。

暑く湿った液体が全身を包んでいる。

心臓の鼓動を思わせる音が規則正しく空間にこだましていた。

それにしても暑い...

膝を抱えていた腕をほどくと、伸ばした手のひらがすぐに柔らかな感触の壁にぶつかり、ぬるりと滑る。

周囲の柔らかな壁を探り閉ざされた空間にいると気付いた瞬間、広い世界へ出たいと熱望が龍雄の心に生まれる。

熱望は熱意となって柔らかな壁の出口を見つけようと周囲を丹念に探る指先に現れた。

見つけた。

まるで呼吸するように、一定の間隔ですぼまり開く穴...

龍雄は穴が開いた瞬間に、まず右腕を肩の付け根まで穴に突っ込んだ。

すぐに龍雄の腕を締め付けるように穴がすぼまったがその感触はむしろやわらかで、肘から先は自由な動きが効く。

次に龍雄は躊躇わず左腕も肩まで突っ込むと、穴が開いた勢いに乗ずるように両腕で更にそれを押し広げて、穴の中に上半身を潜り込ませた。

穴が閉じ、一瞬半身を締め付ける柔らかな壁に熱く絞られる。

穴が開き指先で柔らかな壁を掻き探りながら前方に進むと、一気に広い空間に滑り出る。

四つん這いで歩けるほどのピンクの輝きに満たされたトンネルが前方に続いている。

龍雄は這い進んだ。

前方に目映い明かりが見えた。

龍雄は呼吸するかの様に開閉を繰り返すトンネルの出口を両手で押し開き、次の瞬間見知った天井で煌々と光る蛍光灯の明かりを見上げていた。

どうやら明かりを消し忘れたままで寝落ちしたらしい。

ベッドの下に暑さのあまりはね除けられた毛布がずり落ちている。


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虎狩り アベンジャー政史さん @kyomusenkimiroku2020

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