第11話:再会と告白
すれ違ったこと自体に葉月は気づいてないが、柚希は気づいていた――
すれ違って少し間が空くと、背後からバタバタと足音が聞こえてくる。足音に気づき、葉月は後ろを振り向こうとする。
「――かまちゃんっ!」
「――ほえ? と、友野君……?」
「やっと、君を見つけたんだ。場所変えて話したいことがあるんだけど、いいかな?」
「え? あ、うん……!?」
葉月の返事を聞く暇もないまま、柚希が彼女の手を掴んでどこかへ走り出す。その衝撃で、カバンにしまいかけていた何かを落としてしまった。だが、今の葉月には気にする余裕がなかった。
10分ぐらいは走っただろうか。いつ以来かの全力疾走で葉月はヘトヘトで、1人では立ち上がれない。一息ついた柚希が手を差し伸べた。
「かまちゃん、ごめんね。立てる?」
葉月が頷いて立ち上がると、柚希がそっと抱きしめた。
「言うの遅かったね、久しぶり。高校卒業以来だね。ずっと君に言いたかった。君のことが好きなんだ!」
人生初めて、告白された。場所を変えたのは、誰かに見られたくなかったんだろうか。
それにしても、突然の事で葉月は戸惑っていた。
「え、あ、その……友野君、どうしてこんなことを?」
「やっと、会えたから。高校の時からずっと、君のこと想ってたよ……!」
柚希がそう言うと、抱きしめた手を緩めた。柚希に連れられた場所は、偶然にも葉月が住むアパートの近くの公園だった。
「走ってたら、家の近くまで来てたね。いい運動になったね、あはは。それじゃまたね!」
「うん、またね……!」
まあいいや、と思った葉月は思わず笑顔を浮かべた。
またねと言ってアパートへ歩き出す葉月を追いかける柚希。
「かまちゃんっ! ちょっと待って!」
「ん?」
思わず振り返った葉月へ、柚希は駆け込んで唇を奪った。お互いに初めてのことだった。
その後別れてもぽかーんとしていた葉月は家に入って自分の姿を鏡に映した。思わず唇に触れた。
(ホントにされたんだ……友野君に。まだ、あったかい。でも――)
篝が亡くなって5ヶ月。1人に慣れた葉月は、篝のような存在は、もういなくても大丈夫かなと思っていた。篝との思い出さえあればいいのだと。
だが、あの頃隣の席にいた柚希との思わぬ再会で、葉月のこれからの生活がガラリと変わろうとしていた。
葉月が何か落としたのに気づいたのは次の日の朝だった。支度中にないことに気づいた。採用試験関係の書類だ。USBメモリにまだ残っている。葉月は気持ち早く家を出てコンビニに寄り再び印刷した。職場に着き、何事もなかったかのようにいつも通り仕事をこなす。
しかし、葉月はいつもとは違う仕草をするようになってきた。化粧室の鏡で自分の姿を写すと、唇に触れる癖がついてしまったのだった。
☆☆☆
翌月になってすぐの週末がやってきた。葉月は奈津の家を訪ねた。奈津の旦那は友人の結婚式に出席するため週末は不在。そのタイミングで葉月に声がかかったのだ。娘の
「はづきちゃんだぁ!」
「みっちゃん、久しぶりー!」
光津は変わらず元気だ。奈津も出迎えてくれた。
「葉月、去年以来だね。仕事は落ち着いたかい?」
「まーそんなとこかなー。これからまた忙しくなるけど、ははは」
リビングに入って一息ついてから、光津が嬉しそうに言う。
「はづきちゃんきいて! みっちゃん、おねえちゃんになるの!」
「そうなんだー……って奈津、ホントなの!?」
葉月は驚きを隠せない様子で奈津を見る。奈津は参ったって表情をしながら葉月に明かす。
「実は2人目妊娠したの。今3ヶ月。悪阻少し落ち着いたかなーってとこなの。その報告もしたかったんだけど、葉月に直接聞きたいこといっぱいありすぎて今日呼んだの」
自分も高卒なのに、高卒は結婚早いんだなーと葉月は思いながら、本題に入る。
「葉月がこっちに来る前のお友達には会えた?」
「それが……、春に病気で亡くなった。去年の今ぐらいから入院してたってこと、お母さんから聞くまで全く知らなかった」
「そっか……。お友達と会うの楽しみにしてたもんね。葉月には黙ってたって、その子なりの事情があったのかもね。写真しか見たことないけど、会ってみたかったなぁ。もう会えないのは、辛いよね。いつまでたっても」
話の最中、光津が遊び疲れたのか寝てしまった。奈津が毛布をかけ、話を続ける。
「光津にも、近い将来大事って思える友達できたらいいなー。お腹にいる子にも」
奈津はそう言いながら昼ご飯用に作っておいたサンドイッチを持ってきた。
お昼寝中の光津の分を残して食べ終わると、奈津から思いがけないことを言われる。
「来年年女だよ? 葉月もそろそろお相手探ししないとダメよ? いつまでも仕事してた方が楽かもしれないけど、この先しんどくなるよ?」
「ギクッ。後輩の中には結婚前提で付き合ってる子いるしなー置いてかれてるなー」
「だから言ってんの。こないだ柚希にばったり会ったんだって? 聞いたよ?」
「会ったけど……友野君がどうかしたの?」
光津が起きた。奈津が置いておいたサンドイッチを食べさせ、話を続ける。
「鈍感だなー葉月は。何されたか思い出してみ?」
ずっと会いたかった、好きだって言われた。抱きしめられた。別れる前にキスされた。葉月は全部思い出すと、頭を抱えた。
「後々柚希から聞いて、柚希にしては行動的だなぁと思って驚いちゃったけど。でも、大学行って卒業して、こうして今になっても葉月のこと想ってるって、紳士だよ。中学入ってからの腐れ縁だけど、この私でも脱帽しちゃった。あ、葉月に片想いしてるってことは、高校卒業前に柚希本人から聞いてたんだ、ごめんねー」
「そうだったんだ……」
柚希が大学を卒業し、今何の仕事をしているのか分からない。
「友野君って今何してるの?」
「アイドルの事務所でプロデューサーやってるよ。海斗からの勧めだったみたいだけど」
「何か、凄いことやってるなぁ」
「まぁ確かにねー。今頃けっこう忙しそうだし。柚希の方が落ち着いたら、会って何か声かけてあげたら? あいつだって葉月の気持ち知りたいんだろうし。連絡先知らないなら、いつでも教えてあげるから言ってね?」
そう言われてもなぁ。帰り道をとぼとぼ歩きながらそう思う葉月。
(1人の方が楽かもしれない。そう思ってる、今も。将来誰かと付き合うとしても、篝は許してくれるのかな――)
1人じゃなくなる不安もあるが、恋の感覚がいまいち分からない葉月。恋愛面では大先輩の奈津から言われたことには説得力は確かにあった。
【補足あり】
1:今後葉月の転入先の同級生あと1人登場します。
正体というと……今回は会話の中で名前しか出てきてませんが、次回第12話で海斗こと
2:葉月のあだ名『かまちゃん』がどこから出てきたか、第4話参照。全然使わずですみません。
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