第5話:葉月は文武両道、完璧な少女
葉月は美貌の持ち主だけではなく、頭がよかった。篝がそれを初めて知ったのは、初めての定期テスト、前期中間テストだった。総合結果は学年トップを取ったのだ。
(そんな素振りちっともなかったぞ……すげぇ)
篝も頑張った方だが、学力的には葉月は遠い存在だった。小学校時代葉月と同じクラスを経験した同級生によると、1人だけテスト満点を何度も経験したんだとか。
「どうしたん篝、驚いた顔して」
不意に葉月が声をかける。
「葉月、何でそんなに勉強できるん?」
「ダラダラやらないできちっとやるだけだよー」
それだけかよ。篝はそう思いながら葉月と共に茶道部の部室へ向かった。
篝も葉月も、上達が早いと部長の先輩から褒められていた。定期テストが終わり、学校祭に向け部活でも準備が始まるようだ。毎年やっている、来場者への体験会のようなものをやるそうだ。葉月に流されるまま入部した篝だったが、
(茶道って案外面白いかも?)
そう思えるようになり、ますますはまっていくのだった。
☆☆☆
学校祭でのクラスの出し物は双六だった。これが案外好評で、1年4クラス中1番の評価を貰ったのだ。篝と葉月はクラスと部活の往復で、学校祭が終わるまであっという間に通り過ぎた。
入学当初はどうなるか……と不安を隠せなかった篝だったが、葉月と出会ったことで毎日が楽しくなっていた。夏休み中は週に2回部活があった。夏休み終盤、葉月の13歳の誕生日だ。ちょうど近くの大きな公園で花火大会があり、2人は浴衣を着て待ち合わせをし、一緒に向かった。
花火が打ち上がり始め、篝がそっと葉月の手を握った。
「葉月、お誕生日おめでとう。これからも隣にいてね」
「ありがとう。そりゃ当たり前だよー、大事な親友だもの。あはは。こうして篝と花火見れて、最高の誕生日になったよ。改めてありがとう、篝」
花火大会が終わると、輪と葉月の母親が迎えに来ていた。
「篝ちゃーん、そろそろ帰ろっかー。葉月ちゃんのお母さんも迎えに来てるよー」
そう言いながら、この2人は後ろからついてきて遠くから篝と葉月の様子を見ていた。同い歳だからってこんなに気が合うものか。
「だってー、葉月」
「そうだね、帰ろっかー」
篝と葉月は手を繋いだまま、笑顔で輪と葉月の母親の元へ向かった。
☆☆☆
篝と葉月は、喧嘩何ひとつしない仲良しコンビだった。葉月は、2年に進級する前に篝にこう言った。
「高校も、篝と同じ高校に行きたい。だから篝、勉強頑張ろう。私も手伝うから」
「うん、頑張る」
篝は葉月の願いを叶えるべく、今まで以上に勉強に力を入れるようになった。成績はもちろん葉月には敵わないが、それでも確かな手応えを感じるようになっていた。
共に14歳になり、前期が終わり3年生が引退する。
「篝ちゃんに部長お願いしようかな」
「ええっ、私ですか!?」
「こういうリーダー格今までやったことないっしょ? この機会にやってみる?」
「や、やります……!」
篝が次期部長を引き受け、自動的に葉月が副部長になった。葉月も1年生の部員たちも異論はない。
「篝、頑張れ。副部長として、きちんと支えてあげるから、任しときな!」
☆☆☆
年が明け、修学旅行の話が少しずつ出てきた。飛行機に乗って東京に到着し、東北へ向かって北上していくコースだ。修学旅行と聞いて篝の体が震える。
(篝、大丈夫かな? 小学校の修学旅行中にご両親、交通事故で亡くしたって言ってたよね――)
去年の宿泊研修は何ともなかったはずなのに、何かトラウマになるようなことでも思い出したのかなと葉月は心配になっていた。自分がいない間、今度は輪に何かあったらと思っているのだろうか。
この日はあいにく輪は仕事が立て込み帰ってこれるか分からないとの事。部活はないため、この後まっすぐ帰るだけだ。
「篝? おじいちゃんおばあちゃんのお家行くんだよね?」
葉月は一応篝に確認を取るものの、
「……怖い」
篝はそれ以外何も言わなかった。葉月がそっと抱きしめる。
「輪さんはお仕事頑張りながら、篝が心の底から楽しんで行ってくれることをきっと願ってるよ。大丈夫。いつでも手握ってあげる」
「うん、そうだよね。ごめん、弱気になっちゃって……」
篝は葉月の言葉に励まされ、前へと歩み出した。
☆☆☆
以後、篝はくよくよしないように気をつけるようになった。3年生に進級し、修学旅行中に15歳の誕生日を迎え、葉月をはじめ同じ部屋の同級生達からお祝いをしてくれた。葉月が言った通り、輪は仕事をこなしながら、篝が心の底から修学旅行を楽しんで行ってくれていることを願いつつ、帰りを待っていた。
「叔母ちゃん! ただいま!」
校舎前で解散になり、迎えに来た輪に篝が最初に発した言葉は、明るかった。
「おかえり、篝ちゃん。そして、15歳のお誕生日おめでとう」
「ありがとう! 叔母ちゃん、修学旅行すごく楽しかったよ!」
篝は輪だけでなく、祖父母にもお土産を手渡しし、亡き両親の仏壇にもお供えした。無事終わったという安心感に浸っている暇もなく、定期テストに向けて再始動した。
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