第2章:中学生編
第4話:親友との出会い
中学校の入学式。篝は不安が拭えないまま輪と登校する。クラス発表の掲示を見る。1年A組、出席番号2番だ。教室へ入り、オロオロしている。輪は篝の心配をしつつも教室の外へいるしかなかった。そんな様子の篝に隣の女子が気にかけて、声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい……」
「私は
「秋川篝。こちらこそ、よろしく」
篝に声をかけてきた葉月は、篝が他所者にも関わらず手を差し伸べてくれた。入学式を終え下校になると、
「叔母ちゃん迎えに来たみたい。葉月、また明日ね~」
「あ、うんまた明日……」
叔母ちゃん? お母さんじゃないのか、と葉月は不思議に思っていた。
(何か事情はあるんだろうな、そのうち話してくれると思っておこう)
葉月はそう思って、両親と共に下校した。
☆☆☆
翌日。輪が職場へ行った後間もなくアパートを出た篝。教室へ入る。
「おはよう、篝」
「おはよう、葉月」
「あ、あのさ。お父さんとお母さんは、いないの?」
「それがね――」
両親が事故で亡くなったこと。その後叔母が引き取って生活をしていること。祖父母からこっちへ来ないかと誘われて引越してきたこと。篝はこれまでの事情を全て葉月に話した。
「そう、だったんだ……辛かったよね」
葉月がそれだけ言うと、担任の先生が来てしまった。
この日は午前中は国語と数学、音楽と家庭科の順でオリエンテーションが行われ、午後は個人の自己紹介とクラス委員決めだ。翌日の午後は部活紹介で先輩達がパフォーマンスを行う。
「はじめまして、秋川篝です。〇〇市から来ました。えっと……1人っ子で昨年両親を事故で亡くし、今は叔母と2人で暮らしてます。よろしくお願いします」
「はじめまして、釜谷葉月です。1人っ子です。よろしくお願いします」
篝はビクビクしながらだったが、葉月はシンプルにさらっと収めた。ショートヘアが似合うし、自分とは違って可愛いなと篝は隣で聞いていてそう思っていた。
下校になり、1人で帰ろうとした篝へ葉月が声をかける。
「途中まで一緒に帰ろ?」
「あ、うん、でも……叔母ちゃん仕事でいないから、おじいちゃんおばあちゃんの家行かなきゃだから――」
「そんなこと言ってたね。大丈夫、帰ろっか」
そろそろ分かれ道だ。そう言えばと篝は葉月に尋ねる。
「昨日ちらっとしか見てないんだけど、葉月のお父さんお母さんけっこう若いね。叔母ちゃんと歳変わらないかも?」
「ああ、うん……そうかなぁ? お父さん18、お母さん19の時の子だから。」
「早っ。叔母ちゃんもうすぐ32になるから、やっぱり変わらんね」
葉月の両親は中学の時の先輩後輩だ。同じ高校に進学できたら付き合うって約束をしていたが、父親は祖父が病気で倒れ家計を手伝うため高校に進学できず、泣きながら母親に謝罪し、それでも付き合うと決めた。暫くして葉月を身ごもってたのを隠し高校を卒業した葉月の母親は強い大人だ。
「すっごい話で聞き入っちゃった……」
「ごめーん長話しちゃったね。会ったばかりなのに。また明日ねー!」
葉月と別れ、祖父母の家に着いた篝は、
(葉月って芯が強そう。母親譲りなのだろうか。あのぐらい強い人になりたいなぁ)
そう思っていると、祖母が迎えてくれた。
「篝ちゃん、よく来たねぇ。学校はどうだい?」
「うん、新しい友達できて楽しくなりそうだよー」
夜になって、仕事を終えた輪が迎えに来た。
「叔母ちゃん、新しい友達できたよ」
「おーよかったじゃない。1人ぼっちにならずに済んだね!」
帰宅して、篝は両親の遺影に向かって報告した。きっと、喜んでいるだろう。
☆☆☆
翌日、午後の部活紹介が終わると、葉月は篝の手を引っ張ってどこかへ向かう。
「えっと……葉月? どこ行くの?」
「茶道部! 前からやってみたかったんだよねー。篝も気晴らしにやってみようよ?」
こうして、篝は葉月に流されるまま入部届を出すことになった。
「新入部員2人確保できましたー! パチパチ〜! ってことでー……篝ちゃん、かまちゃんと呼ばせてもらうね。これからよろしく!」
部長を務める3年生の先輩が明るく出迎えてくれた。部員はこれで7人と少人数の部だが、少ない方が落ち着く。以後葉月は、部活だけでなくクラスでも篝以外から『かまちゃん』と呼ばれるようになる。
☆☆☆
入学から1ヶ月が経過し、そろそろ両親の1周忌が迫っている。この機会に篝は、亡き両親と輪に葉月のことを紹介しようと思っていた。式が終わってから、輪の都合次第になる。
部活を終え、篝と葉月が帰ろうとしていたところに偶然にも輪が迎えに来ていた。今日は職場へ行く日だったはずだ。
「あれ、叔母ちゃん? 仕事早く終わったの?」
「なんか早く終わっちゃった。で、そちらの方は?」
「あ、はい。篝と同じ1年A組の釜谷葉月です。篝と同じ茶道部に入り、今から一緒に帰るところでした」
「と、いうと……篝ちゃんが言ってた、お友達?」
「はい、そうです」
「おっと、名乗っていなかったね。私は篝ちゃんの叔母ちゃん、水野輪。よろしくね、葉月ちゃん」
思わぬ出来事で出会うことになり手間は減ったが、どこかの機会に亡き両親を紹介したいと篝は思っていた。
☆☆☆
GWが明け、週末に両親の1周忌が行われた。篝達は父方の祖父母と年末年始以来に会った。父方には亡き父の3つ上の娘がいるので介護には心配ないのだが、輪は気がかりだ。
その後篝は13歳の誕生日を迎えた。誰よりも早くお祝いをしてくれたのは、葉月だった。日付変わると同時に携帯にメールが届いた。そこまでしてくれたのは、葉月が初めてだった。
そして次の週末、輪は篝と葉月を連れてあるところへ出かけた。姉と義兄の写真も一緒に。
「輪さん、ここは――」
「うんとね、姉ちゃんとの思い出の場所。小さい頃よくここ来て一緒にいっぱい遊んだなーと思って。姉ちゃんが義兄さんと結婚してからは篝ちゃんとよく行ってて、私は全然だったけどね」
「お母さんは、いつでも元気な人だった。料理も上手いし何でもできていいなーと思った。お父さんは何歳になってもかっこよくて、それに、休みの度に色んな所連れて行ってくれて楽しかったなぁ」
篝は葉月に亡き両親の写真を見せて、両親のことを楽しそうに話していた。
「素敵なご両親だねー。うちのお父さんお母さんも見習って欲しいぐらい」
葉月は苦笑いを浮かべていた。
「いやいやー、葉月のお父さんお母さんだってすごいなぁと思うよ」
輪は楽しそうに話す篝と葉月を見ながら、来てよかったとほっとしていた。
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