某国で発掘された石板の解読結果

バルバルさん

その日、五度目の争いが起こった。

 始まりは混沌の泥だった。

 その泥の中は生も死も無く、ただ命が混ざり合って攪拌されただけの世界。

 その混沌の泥を混ぜる存在有り。名も無き攪拌者と呼ばれるそれは、巨大な箆で泥が固まらぬよう、さらに混沌とするようにかき混ぜる。

 そして泥の外側より二つの来訪者あり。

 光の巨人、クルト=ケトリウムと闇の巨人、アトゥ=カトリウム。

 その瞬間、泥の世界に光と闇という二つの概念が生まれる。

 それに腹を立てたのは名も無き攪拌者。自分の領域にそんな概念はいらない、外側の者が介入するなと巨人に戦いを挑んだ。

 戦いは永遠にも思える時間の中続いたが、結局名も無き攪拌者は二人の巨人に敗れた。

 光の巨人は名も無き攪拌者を封印して泥の最も深い所へと沈め、闇の巨人は箆をへし折り外側へと捨てた。

 そして世界には混沌の泥が残った。



 光の巨人は巨大な槍を取り出した。ヴァジュラナハータと呼ばれるそれを混沌の泥へ突き刺し、泥に秩序を与え固めた。

 そして闇の巨人は巨大な剣を取り出した。ヴィジュケンノンと呼ばれるそれで秩序の産まれた泥を切り、二つの概念に分けた。

 この瞬間、秩序と生と死という概念が生まれた。

 その後、光の巨人が泥を固めて闇の巨人が切り分けるという行為が続き、混沌の泥しかなかった世界に、秩序だった生死の下地ができた。

 そして切り分けなかった塊は、大地として命の保管所とすることにした。

 塊を切り分けてできた空の世界は、ソラとして魂を保管する場所とすることにした。

 切り分けた生の方の塊に、光の巨人は形を与えた。

 切り分けた死の方の塊に、闇の巨人は魂を与えた。

 そして、大地に生の、ソラに死の塊を置くことで、生き物の形が崩れてもまた大地から作れるよう、崩れた生き物の持っていた魂は空へと昇り、死の塊に一旦保管されるように。生と死の秩序を作った。

 ここで問題が起こった。巨人たちは世界の外に帰らなくてはならなくなったのだ。

 だが、まだこの世界には最低限の秩序しかできていない。そのため、巨人は自分たちに代わる管理者を作った。

 それが最初の人、ゲスト=ケトカトン。

 その人に巨人たちはヴァジュラナハータとヴィジュケンノンを与え、世界に秩序を作れと命じて世界を去った。

 ゲストは巨人たちと同じように、生と死の秩序ある生き物を作り始めた。

 そして作った生き物たちの言葉に耳を傾けた。

 魚たちの先祖が生きやすい世界を求めれば、海を作り。

 鳥たちの先祖が生きやすい世界を求めれば、空を作った。

 そして気が付けば、大地に、海に、空に生き物が、秩序だって生きる世界ができた。

 めでたし、めでたし……




 とはならなかった。地底奥深くに封印された名も無き攪拌者。その存在の怨念が、秩序を壊すための存在を、大地から生み出した。

 それが怪獣と呼ばれる存在。秩序を壊し、命の循環をめちゃくちゃにする者。

 ゲストや生き物たちは始まりの怪獣と戦った。

 結果、怪獣は倒せたが多くの命がソラへと昇ってしまった。

 そう、生き物たちは弱すぎたのだ。これはいけない、と、ゲストは自分のように戦える生き物を作った。

 それが人間である。

 ゲストと人間達は、命の秩序を壊す怪獣と戦った。

 火山の怪獣、ボルケリオン。

 津波の怪獣、シーゲリオン。

 竜巻の怪獣、ウィゲルゥ。

 等々……怪獣と人間の戦いは続いた。

 だが、戦うために生まれた存在の人間達と言えど疲れ始めていた。

 そしてゲストは怪獣の根源、名も無き攪拌者を討伐することを決める。




 攪拌者との戦いは激しい物だった。人間達も、人間以外の生き物も、力を合わせて戦った。

 そしてヴァジュラナハータは折れ、ヴィジュケンノンも壊れ、ゲストも命の循環に還った。

 だが、折れた槍を、砕けた剣先を、人間たちは攪拌者へ突き刺した。

 そして再び、大地の最も深い底へと攪拌者を落として戦いは終わった。

 しかし、人間たちはゲストという導き手を失い、持っている力を持て余し、お互いに争うようになった。

 また、名も無き攪拌者は完全には消滅しておらず、その力が少しだけ、地底から漏れる時、光は陰り暗くなる夜が産まれた。


 再び巨人達がこの世界を訪れた時も人々は争いあっていた。

 このままでは、世界が混沌に戻ってしまうかもしれないと、巨人達は人々の前に現れた。

 そして光の巨人は人々に道徳の心を、闇の巨人は滅亡への恐怖の心を彼らに植え付けた。

 また、人々が秩序を壊す側になるのを防ぐため、巨人は自分達の分身を太陽と月として残し、見守ることにした。

 万が一、人間が秩序を壊す側になったとき、これを地上に落として他の命の秩序を守るために。

 人々は道徳心と恐怖によって、争うのをやめた。

 また、人々が大きく争うとき、ゲストの魂が大地へと降りて、滅亡戦争が起こらないように人々を導くことにした。


 そして、巨人は人々に、五度のやり直す機会を与えると伝え残して去っていった。 

……

………


 人は争う生き物だ。なぜなら、怪獣と戦うために生まれた存在だから。

 だが、争えば争うだけ、人という種族は滅亡に近づく。

 すでに私は三度、この世界に生まれ落ちてしまった。

 人よ。道徳心と恐怖を持って争いを回避せよ。

 未来の君たちが怪獣にならないことを、私は切に願っている。


四代目ゲスト=ケトカトン

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