絵画を鑑賞中にイく奴の話

夢価値

第1話

大家美術館、僕の名前を冠している美術館。

これができるまでの道のりはそう簡単じゃなかった。

貧しい家庭で生まれた僕は子供のころからお金持ちになることが夢だった。

高校卒業後に就職し、平社員から死ぬ気で働きまくった。好成績を残して社内での新記録も更新した。

その会社で学ぶことが無くなり、退職して会社を立ち上げた。

うまくいかないことだらけで危うく倒産しそうにもなったが、何とか続けてる。

いまや日本を代表する会社になり、CMが流れいたるところに広告が張り出されている。

自他ともに認める大手企業に成長し、億を超えるお金がじゃんじゃん入ってくる。

僕は夢をかなえることができた。

そして夢を叶えたあとはどうしようかと考えた。

そこで昔から絵が好きなのもあり、美術館を開いてみることにした。

それが大家美術館だ。

美術館といっても都市部にあるような立派な美術館ではなく、ビルの数階を借りそこで展示を行っている。

始める前は美術館で働いている人たちにアドバイスを聞きながら準備をしてきたのだが、話を聞くと最近どの美術館でも廊下に水滴が落ちていたりひどいときはそこらじゅう濡れていることがあると聞いた。

マナーの悪いお客さんが鑑賞中に飲み物飲んでこぼしたりしたのだろうと愚痴っていたのを覚えている。

そういう美術館あるあるらしきものも聞きながら美術館を開くための準備、そして大家美術館を開室し、なんやかんやあって始めて1年になる。

それを記念して1か月間、1周年記念として今まで以上に価値の高い絵画やイラストを展示しようと企画していた。

色々な人からの助けもあり、今日はその記念すべき1周年記念の展示初日である。



「ご来場ありがとうございます。本日は大家美術館1周年記念にお越しいただきありがとうございます。ご鑑賞をお楽しみください」

開室してから2時間が経ち、人が多く来場する時間帯に突入した。

この美術館の主である僕も今日は初日ということもあって見回りに来ている。

始まる前は見に来てくれる人がいつもより少なかったらどうしようかと不安になっていたが、混雑していることに内心嬉しい悲鳴をあげていた。

どの展示品にも人が集まり、熱心に鑑賞してくれている。

十分なスタートを切れているのでは、とこの上ない満足感で満たされていた。

ただ少し心残りなことが一つある。

僕が集めた展示品はどれも貴重なものであり、作品に優劣をつけるものではないと考えている。

それでも、出会った時からずっと僕の中でナンバーワンの作品があった。

派手さもない、大きいわけでもない普通サイズで描かれ、有名でもない作家による絵画。

だが一目見た時から、僕はその絵の虜になった。

この絵を買う時も持ち主は何でこの絵を?と不思議そうな顔をしていた。

気づいたらどの展示品よりも大金をはたいてその作品を購入していた。

この1周年記念で多くの人にこの作品を知ってほしい、見てほしいと思っていた。

もちろん人を集められるだけの有名な作品も収集したつもりだ。マイナーな作品ばかり展示して人を集められなかったらこの美術館を続けられないのだから。

どの作品よりも、あれのことを知ってほしい、あれを鑑賞した人と語り合いたいと考えていた。

だがそんな思いとは裏腹に、例の作品の前に人だかりはできなかった。

ほとんどの人はちらっと見たらすぐにほかのところに移動し、足を止めて鑑賞してくれる人も大体は展示されているものを全部鑑賞する派みたいな人ばかり。

その人たちにその作品どうでしたかと話しかけても「私はあんまり」「さっき見たやつの方がよかった」「面白くなかった」と僕にとって散々な返答ばかりだった。

少しだけ、美術館を開いたことを後悔した。

ただ今日だけでなく今までも多くの来場者が来てくれて楽しかったと喜んでくれた。、大家美術館は成功している。

一つの作品の評価だけで一喜一憂するのは良くないとわかっている。

わかっているのだが,,,



時間が過ぎて閉室10分前になったころ。

ほとんどの人が展示品を後にし、美術館は開室前と変わらない風景となっていた。

残っている人がいないかを確認するために、僕は最後の見回りをすることにした。

数階を借りているものの、フロア自体はそこまで広くないため見回りは自分でするとスタッフに伝える。

オーナーが見回りするんですか?という顔をされたが、主張を通した。今日が気になりすぎて部下たちに仕事を任せて美術館に来たのだ。最後まで自分で見届けるつもりだった。

見回りに行こうとしたらあるスタッフから全フロアにて廊下が点々と濡れていたという報告を聞いた。恐らくお客様が飲み物か何かをこぼしていたのだと見解を述べてくれた。

確かに開室前にスタッフらと一緒にチェックは行い問題はなかった、言う通り飲み物こぼし説が有力だと考えスタッフの一人からハンカチを拝借した。もしも水滴を見つけたとき用に持っておくことにした。

1フロアを除いて見回りを行い、まだ残っていた人たちにもやんわりと閉室の旨を伝えて残っているのは展示品たちだけになった。

残っている1フロア、これは意図的に最後にした。

例の作品が展示されているからだ。

今までの反応を思い返せば、あの絵を最後まで見ている人はいないだろう。そんなことは分かっている。

残っている人がいないかを確認するというよりは閉室前に、今一度鑑賞しておきたいという思いがあった。

イベント初日というのもあって今まで以上に緊張したし、肉体的よりも精神的に疲れていた。

あの絵を見れば癒されるというわけではないが、一番のお気に入りを鑑賞して少し落ち着きたかった。

どうせ誰も見ていないのだから、最後は椅子に座りじっくりと観賞しようと思う。

今日のあの作品最後の鑑賞者は僕ということにしよう、そう考えていた。

だから展示品に近づいたとき、驚いた。

微妙だと評された、何がいいのかわからないといわれた、僕の一番お気に入りの作品の前に女性が一人座っていた。

疲れたから座っているのではなくちゃんと作品の見ている、気がする。少なくともぼーっとしているようには見えない。

僕はゆっくりと彼女に近づく。

作品と彼女を照らす照明が周りよりもまぶしく見えてしまう。

彼女の顔が見えるところまで近づく。

「ご鑑賞中に申し訳ありません。そろそろ終了5分前になりますので、お手数をおかけしますがご準備をお願いできますでしょうか」

この言葉は美術館のオーナーとして。

「・・・この作品、気に入っていただけたでしょうか」

そしてこれはオーナーとしてではなく、大家弘人個人の言葉として。

聞かずにはいられなかった。

「そうですね,,,」

彼女の口からこの作品への称賛を聞きたかった。

最後の鑑賞にこの作品を選んでくれた理由を知りたかった。

「この作品は他に比べたら小さく、あまり目立ちません。それだったらと多くの人は鑑賞していて面白い絵に目移りするでしょう」

初手の評価はマイナスからだった。

ほとんどの人が言っていたこの絵に対しての表面的な感想。

ただ彼女はそれで終わらなかった。

「でも一歩前に出てこの絵を見てみるとわかる、これは素晴らしいものです」

「細部にまで神経を巡らせ紡がれる線、じっくりと観賞してわかる計算しつくされた構図、また重い色をダイナミックに使用し地味ながらもインパクトある仕上がりとなっている」

「そして何よりも誰もが通ずる普遍的なテーマがいい。ありきたりだけど独自の解釈を盛り込んでいる」

「テーマを自身の持っている技術総動員して表現しようとしている力作だと思う」

「これをわかってあげられる人は少ないでしょうね」

彼女の口から出る賞賛一つ一つが僕にとっては宝石に思えた。

同時に、その宝石を僕めがけて投げられている気分だった。

実は僕が作品に対して持っていた感想や評価は薄っぺらいものであり、酷評していた彼らと変わらない。この絵が好きか嫌いかの違いでしかない。

これを評価するなら私が言った言葉と同等、もしくはそれ以上のものが出るはずだと。あなたはこの作品の真価をわかっていないと。

そういわれているような気がした。

「僕はこの作品がここに展示されてる何よりも大好きです。大好きだからこの作品の良さを皆さんに知ってほしい、そのためにこの作品のことを知り良さを説明できているつもりでした」

「でもそんなことはありませんでした。僕の感想も評価も表面的な部分しかなく、この絵を悪く言っていた人たちと変わらない。この作品のことをわかっているつもりで何も分かっていなかった」

「きっと心のどこかでこれをわかっているのは自分だけだと天狗になっていたのかもしれません。それをあなたのおかげで知ることができました」

「あなたは素晴らしい知識と審美眼をお持ちですね」

「そんなことない。私はただ、事実を言っているだけ・・・」

「んっ」っと一瞬、彼女の身体がビクンと震えた、ように見えた。

そう見えただけで実際は震えてなんてなくて、錯覚だったかもしれない。

それよりも僕はこの絵の素晴らしさを理解し説明してくれた彼女に興味がわいていた。

いったいどこでその観察眼を養ったのか、それとも元々そういった能力を持っていてその才能を生かした仕事をしているのか。

僕よりも絵に詳しそうな彼女をもっと知りたくなってきた。

「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか。私はこの美術館のオーナーである大家弘人です。あなたは・・・」

「立花霧絵。見たことあると思ったらオーナーさんだったのね。ビラにも載ってたわね」

「ぼくは乗り気じゃなかったんですけどね。それで立花さん、」

あなたは一体、と彼女の経歴やそのほか諸々のことを聞こうと思ったが、顔を見て察した。

立花霧絵は今、絵に集中している。恍惚とした表情を浮かべ、絵画に没頭している。

きっと僕には計り知れない思いや考えを巡らせ、作品を楽しんでいるのだと思う。

もう少し彼女と話したたかったが邪魔をしては悪いと離れようとしたとき、ふと椅子に置いていた左手から変な感触を感じた。

見てみると透明な液体に触れおり、その液体を追ってみると何故か隣に座っている彼女から流れていた。

いけない、水がこぼれてしまっているとすぐに美術館のオーナとして動いた。

「立花さん、水がこぼれています」

ハンカチを持っていたのでそれで椅子を拭こうとする。

立ち上がらせようと彼女の前に立った時、下半身に目が行ってしまった。

女性の身体に目線が行ってしまうのは失礼なことだと重々承知している、理解しているのだが、吸い寄せられるようにその不自然に盛り上がっている箇所を見てしまったのだ。

股間部分が斜めに盛り上がっている。何か棒のようなものが刺さっているように見える。

「立花さん、なんですか」

これ、と言おうとしてあることに気が付いた。

先ほどの触れていた液体。

最初見たときは水に見え、飲んでいる最中に立花さんもしくは彼女が座る前にいた誰かがこぼしてしまったのかと思っていた。

ただ彼女の身体を見てそれは違うのだと気づいた。

彼女の服が濡れている。正確には股の部分だけが濡れていた。

もしかして、漏らしてしまった?

いや、それならあの液体は黄色などの色がついているはず、匂いだって。排泄物ではないはずだ。

それなら股部分が濡れているのは何なのか。液体が彼女の身体から出ているのは間違いないのだが。

液体も気になるのだが、一番異質なのは彼女の股から生えているーように見えるーあの棒だ。

ワンピースの股部分を女性の身体にはないはずの棒がいまにも突き破ろうと主張している。

上から見下ろすような形でその棒を見ているが、結構怖い。女性の股からありえないものが主張してくるし、結構怖い。

椅子を拭こうとしだけだったのに、気づいたら奇妙で異常なことが目の前で起き、しかも解決できないままでいる。

恐怖で体は硬直し、頭もうまく働かない。段々と彼女のことが恐ろしくなってきた。

知識あふれる立花霧絵という人が何か得体のしれないものに見えてきた。

空っぽの頭の中でふと時間のことを思い出す。

正確には分からないがすでに閉館時間を過ぎているかもしれない。

そうだ、それを理由に立ち去ってもらおう。

彼女にそのことを告げようと口を開いた瞬間、股棒(股から出ている棒)がビクッと跳ねた。

「あっ!?」

自分でも情けない声をあげてしまったと自覚しているが、何の前兆もなく動いたのだから無理もない。

SF映画に出てきそうな生き物が今にも生れ落ちようとしている、そうにしか見えなかった。

恐くなり視線を上にあげると立花さんの顔が映る。

その表情はうっとりして、頬を赤らめている。

さっき彼女の顔を見たときはこんなに絵画に対して集中できる人なんだと感心していた。

しかし今改めて見ると、この言葉が正しいのかわからないが。

作品に欲情していないか、この人?

「あっ、はぁ」

彼女の口から艶っぽい声を漏れる。

そしていきなり目をカッと見開く。

「イィ」

両足をあげ大きく開脚する、ワンピースを履いていたから秘部はかろうじて見えなかったが、布があるせいで例の棒が存在感を放っていた。

彼女は左手を局部に持ってきてその棒を掴んだ、服の上から。

そして掴んだ左手を小刻みに前後移動させ呪文のように唱え始めた。

「厚塗りされた色完璧なパース洗礼された描き方写実的にポップにもとれる独特な描写随所にちりばめられた名作へのリスペクトとオマージュ

絵画なのに音が聞こえる匂いを感じる描かれている人たちの声まで聞こえる喜怒哀楽のすべてが詰まっている顕微鏡を使って眺たいほどの細部への驚異的なこだわり

散々扱われてきた普遍的テーマへの斬新な解釈とそれを納得させる力画力表現力どれをとってもパーフェクトで後世に語り継がれるべき傑作であって」

「ああなんて美しい」

「うつく、しぃぃいいいいいいいいいいいいいいいああああああああああああああああああああああああああ」

「すぅごおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいおおおおおおおおあああああああああああああ」

「うんほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」

小さかったピストンは段々と激しくなっていき一定のリズムになると彼女の声も大きくなっていった。

動きが速すぎるせいでちらりと彼女の陰部と棒の先端部分が見えた。

シルエットしか見えなかった正体不明物体、得体のしれない棒の正体は筆だった。

絵画に使われる筆。

彼女はその筆の先端である毛先を自身のにこすりつけ快楽を得ていた。

僕の一番思入れのある作品をオカズにして、だ。

「いッッッッッッッッッッッッッッくぅぅぅぅうううううううううううううううううううううううううううううううううう」

両足をピンと伸ばし正面に見える彼女の秘部から液体が放出され僕にかかる。

かけられた液体はさっき触った液体と一緒のだと瞬時に理解した。

かけられたのが小便じゃなくてよかったなんて1ミリも思えなかった。

「はぁ、はあぁ、オぅ」

絶頂を過ぎた彼女は余韻に浸りながら息を整えている。

「大家さん、この絵はやはり、素晴らしいです...!」

「え。あ、ああそうですね」

「このえのすごいところ、を、もっと知ってほしいん、ですけど、もう時間ですよね」

「・・・・」

「そろそろおいと、ま、します,,,」

「待ってください立花さん」

「え」

「ここにいてください。僕はあなたのお話をもっと聞きたいです」

「いや私の話なんか」

「この作品のこと、もっと知りたいです」

「・・・ほんとですか?」

「はい。なのでここで少し待っていてください。お水を取ってきますので」

「べつにいらな」

彼女の返答を聞かずに立ち去った。

走っている最中にこの後のことを考える。

裏に戻ったらスタッフたちに報告、すぐに警察に通報して彼女を捕まえてもらう。法律は詳しくないがわいせつ罪なんかで捕まえられはずだ。

そして事が済んだらアドバイスをもらった美術関係者に報告だ。

もう廊下が水浸しになる心配はない、と。

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