悪魔の囁き、せめぎ合いのもつれ。


 信頼していた夫は、二十年に渡って裏切りを続けていた。
 私は包丁を持って寝室に向かう。
 この黒々とした思いを突き立てる為に。



「ファム・ファタル(運命の女)」という言葉があります。
 相手を虜にする魅力を持つと同時に、関わった人物を破滅へと至らせる、そんな魔性の女性。

 言葉だけは何となく知っていたのですが、この作品を読んでみてはっきりと
「ああ、この人のことを指すんだろうな」と思いました。

 彼女の一言一言がまさに悪魔の囁き。普通であれば……それに屈して「痛快」な物語にしてしまうのかもしれません。
 しかし、「私」は少なくとも足元は見えており、痛快の代償として、払うべき犠牲もまた分かっている。
 それが読者をもドギマギさせるような苦悩を生み出しています。

 すべきか、すべきでないか。
 せめぎ合いの果てに「私」が出した結論とは……