ー回想ー Aランク冒険者の足掻き

「こりゃ、どうなってやがる!!?ギルドが嘘の依頼を出したってのか!?」


「黙れピーター。今はそれどころじゃない。どうやら相手は話が通じるタイプじゃ無いらしい!!」


パールはピーターに怒声をあげながら逃げる様に催促する。


「ナイス、アーク。このまま俺らで引きつけながら逃げるぞ。犠牲者を一人でも減らすんだ!!」


この討伐は相手が魔族だとは聞いていないし、魔族領に踏み入ることになることも聞いていない。表向きの依頼は数人でもこなせる程の簡単な依頼であったためフルメンバーで討伐に来ている訳でもない。俺らがこうしている間、ララとルルは姉妹で休暇を満喫している。


「なるべく攻撃は受けるなよ。回復薬にも限りがある!!」


「わかってる!!そもそも交渉や工作担当が前線に出てる事自体おかしいけどな!」


「仕方ないだろ。この討伐に参加してる中だとお前も前線出張る強さなんだから。それにこんな時まで皮肉はやめてくれ。兵士の方は大した事はないがリーダーらしき男の強さが異質だ。」


「見た感じ大佐ぐらいはありそうな勢いだな。少なくとも今このメンバーでは勝つのは無理だ。他が弱すぎるのと回復役が居ないのが致命的だ。この不祥事は公にしなければならない。誰でもいいからこの惨状から逃す。それが今課されている任務か。」


因みにここでの勝利とは戦いに勝ち尚且つ五体満足で生還することを指す。


「そんな後の事考えてないで今に集中しろ!死ぬぞ!!」


「分かってる!!」


「くくく、他の方々に比べると多少は生きがいいらしい。しかし、実力が圧倒的に足りない。それに動きがぎこちない。」


「こっちがフルメンじゃ無い事はバレてるらしい。パール!逃走班の最後尾に回れ!アークはそれの援護!!」


ここにいる全ての魔族がピーターの目の前にいる。だから、実質逃走班の最大戦力である二人には最前列では無く最後尾に回る様に指示を出した。


「おや、貴方一人で少しでも時間を稼げるなどとお思いで?」


「あぁ、そうさ。逃走を視野に入れず時間を稼ぐ程度なら容易い。これでもAランク冒険者だぜ?お前も俺ら舐めてると死ぬぞ。」


ピーターはこの時初めて剣を抜いた。


「ほぉ、良い剣ですね。」


「当たり前だ。何十年相棒にして折れも欠けもしてない最高の品だならな。」


ピーターが剣を一閃させると地面には渓谷が出来上がり剣を振った風圧で木々が薙ぎ倒されていく。


「威力は凄まじいが当たらなければ…。」


次の瞬間隣には死神は立っていた。


「直接当てるから問題はない。」


ギリギリガードが間に合う。しかし、ガードした程度で止まる剣ならばAランク冒険者になどなれていない。

ガードした腕ごと切り落とされ、腕を切り落としてもなお止まらぬ剣は腹の一部を抉るに至る。


「チッ、ミスったか。」


「ほぉ、この私の腕を切り落としても止まらぬ剣に、それを可能とする強靭な腕力。これだから人間は面白い。歳と強さがいい意味でも悪い意味でも比例しない才能の種族。エルフの様な老練さも、獣人の様な荒々しさも持たないのにも関わらずこの強さ。感服致す。お前さえ良ければ魔王軍に入らないか?」


「断る!!俺らは自由にやりたいから冒険者をやってるんだ。それに殺し合いが話し合いになる魔族との共生は難しい。互いに不干渉でいる事が望ましい。」


「ほぉ、それは残念です。では死んでください。貴方の強さには敬意を表し私も剣でやりますから。」


そう言うと空間が歪むとそこに再生を終えたばかりの手を突っ込み悍ましい何かが引き出される。


「悍ましいがなかなか良くできた剣だな。付与されている効果が何かしらありそうだ。打ち合うのは避けた方がいいか。」


次の瞬間ピーターは再び目にも止まらぬ速さで動き出した。


「ほぉ、さっきの瞬間移動にも見えた速度のさらに上に行きますか。素晴らしい。本当に殺すには惜しい男だ。」


「見切られてはいるか。しかし、速度は破壊力にも繋がる。今度こそ真っ二つに両断してやるよ。」


「ふむ、その無謀な挑戦受けて立とう。」


ピーターが加速を終え最高速で魔族へ突っ込む。魔族は剣を構え受けの姿勢を取った。


バンッ!!!


到底剣同士がぶつかったとは思えない音が鳴り響くと同時に爆風が辺りを襲う。


キィーーー


甲高い音を立てながら魔族の剣が削れながら斬れていくがそれと同時に瘴気のようなものが吹き出す。


「ゴフッ!!」


ピーターの口と目から血が吹き出すがそれで止まる事なく剣を押し進め、剣を両断し魔族を宣言通り真っ二つにした。


「死んだな。あー、きっつ。お前らの大将は死んだ失せろ!!さぁ、帰るぞ。」


そう魔族の残党に言いながら振り返った瞬間地獄の様な光景が目の前に広がっていた。守っていた冒険者達と最後尾で取り逃がしから守っていた仲間が全員の首を落とされていた。


「おい、嘘だろ。パール、アーク…。貴様かぁ!!!!」


「おいおい、そう熱くなるなよ。もう動けないだろ?決闘の邪魔はしないでやったんだから感謝しろよ。」


ヘラヘラと笑いながら生首を蹴飛ばす魔族を前にピーターは理性を失った。


「殺おぉぉ!!!っす!!!!」


瘴気に蝕まれ動けば動くほど身体中から血を撒き散らしているのにも関わらずその動きは先程の比では無い程素早く、破壊力もあり得ない程上がった。


「はぁ、アタオカ狂戦士タイプか。先に言っておくが私は先程決闘した者より遥かに強いぞ?静かにしてれば痛みを感じる間もなく殺してやったと言うのに…。何故人間はここまで愚かなのだろうか?」


余裕の笑みを浮かべた魔族は油断たっぷりな態度でピーターの前に立ち塞がった。


ー暫くしてー


「何故…?」


魔族は膝をつき、飛ばされた頭が立ったまま死に絶えたピーターを捉えた瞬間溶けながら息絶えた。

因みに溶けているのはパールの置き土産の猛毒が全身を回り再生速度よりも早く細胞を殺し溶かし尽くしたためである。

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転生少女の異世界放浪 夜椛 @HIMAZIN_63

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