123.裏切り者の正体

「ですから、私が、アーサー殿下にリオの事を話したんですよ。間抜けなハーフエルフにリオが斬られました。今なら簡単に彼を捕まえられますってね」

「......ジョエル......何を言って......」

「......」

「......」

「......貴様、アーサーのスパイだったのか」


 ヘイグは牙を剥き出しにし、狼狽する。体が震え、怒りと驚きで目を血走らせていた。一方、リオはあくまでも平静な声を出す。


「いいや、違うよ、ヘイグ。ジョエルは、アーサー殿下のスパイじゃない。......ジョエル......あいつは......あいつは、――――

「なんだと!?」


 リオの言葉にヘイグは雷に打たれたかのように立ち尽くした。


「前に、ルーナ隊でスパイ騒動があったと聞く。それがジョエルだったんだ。そうだろう?」


 リオがジョエルに目を向ける。薄暗い部屋の中、ジョエルの影が不気味に揺れる。ハイエナ男は悪びれる様子もなく、薄く笑った。


「ええ、そうです。リオは流石に察するのが早いですね」

「そ、それではつまり......」


 ヘイグは何かを言いかけて黙り込む。あまりにも恐ろしい事を口に出そうとし、とまどわれた。代わりにリオが静かに続けた。


「ああ。......つまり、アーサー殿下は、敵国......それも、、という事だ」

「さあ、何のことだか。『獣公国』? 『スパイ』? さっきから一体何を言っているのか、さっぱりわからないな。俺は、あの男が何者か知らない。だけど、あいつの敵は金獅子の団だと言っていた。だから手を組んだってだけだ」


 アーサーは「わからない」と言いつつも、口調はわざとらしく目が笑っている。あくまでしらを切るつもりのようだった。


「さて、話が終わった所で、殿下、後は私がやってもよろしいでしょうか? これでは兵を無駄に死なせるだけですよ」


 ジョエルは兵達から一歩前に出る。どうやら彼は自分一人でリオとヘイグと戦いたいようだ。リオは本調子でないとはいえ、戦場の生ける伝説と呼ばれた二人をまとめて相手するなど無謀に近い提案のはずだが、アーサーは鼻を鳴らし、好きにしろという合図を送る。


「ジョエル......お前......俺達を殺すつもりなのか?」

「抵抗しなければ殺しませんよ、リオ」


 ジョエルの返答は、平然とした口調だった。仲間に対する情は一才感じられない。


「ジョエル......お前......本当に裏切っていたんだな......。ずっと、平然とした顔で......」

「私からしてみれば『裏切った』つもりはありませんね。最初から仲間だと思ってませんでしたから」

「......」

「かれこれ10年程前でしょうか? 私は元々、ガルカト王国の情報を収集するために金獅子の団に入団しました。出自の曖昧な獣族でも紛れ込める団体は選択肢が限られていましたが、ここに入ったのは本当に偶然でした。まさか10年後、獣公国が最も危険視する騎士団に成長するとは思ってもいませんでしたよ。そして、ある日金獅子の団を崩壊させるよう私に命令が下りました。だから、獣公国にルーナとパトリシアを狙わせたんです。リオの弱点はルーナ。ルーナの弱点はパトリシアですから。本当はパトリシアを生け捕りにしてルーナをゆすりたかったのですが、結果的にはあれを殺す事でルーナを不安定にし、金獅子の団をここまで追い込む事ができました。しかも、ストレスを爆発させてリオの右手を斬るなんて、ルーナは本当に良い仕事をしてくれました」

「......お前が......お前が、ルーナを......」


 リオの中で抑えられていた怒りの感情が初めて表情に現れる。彼の赤い瞳が冷たく鋭く光る。


「リオ、貴方にしては勘が悪かったですね。昔から身内に甘いのが貴方の弱みです」

「......」

「貴方だけではありません。ケンやデニス、ヘンリーさん、アラン、ルーナ隊の皆、本当に馬鹿ばかりです。......ふっ......ふふっ......あのアホ面共を思い出せば思い出す程笑いが込み上がってくる。あいつらなーんにも考えてないんですもん。こっちはいつ皆殺しにしようか考えているというのに、ヘラヘラ笑って話しかけてくるんです、ははっ。でも、あのアホ面も今日限りでもう見れなくなってしまいますね」

「......? お前......まさか仲間に何かしたのか......?」

「ふふっ......」

「答えろ!」

「......金獅子の団は今夜、

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