120.ルーナの裏切り

 王子様の旅はまだまだ続きます。


 ところがある日、王子様は妖精を見失ってしまいました。旅に夢中になっていた王子様は妖精がいなくなっていた事に気づきませんでした。慌てて王子様は妖精を探しました。


 けれども、妖精はどこにも見当たりません。



「ルーナ、どこまで行ったのでしょうか......?」


 野営地から少し離れ、夜の森を猫の獣人アランは歩き回る。仲間の話によると、ルーナはリオに連れられてどこかに行ったらしい。ルーナがいなくなってかなり時間が経つし、何より最近のリオとルーナの関係性を考えるとどうしても不安になる。心配になったアランは様子を見にルーナ達を探す事にした。


 松明は用意せず、月の光と持ち前の嗅覚を頼りに二人を探す。霧の森でたかがセイレーン一匹に殺されそうになった新人時代のトラウマが蘇り、森の奥までは進めない。


 周辺をしばらくの間うろうろすると、遠くから微かな声が聞こえてきた。アランは声を頼りに進む。


 そして、彼は衝撃の光景を目にした。リオが地面に倒れ込み、右手から大量の血を流していたのだ。


「――リオ団長! どうしたんですか、その怪我は!?」


 アランは駆け寄り、リオの様子を確かめる。

 右手はかなり深手だった。リオの顔面は蒼白で苦痛の表情が浮かんでいる。


「リオ団長! る、ルーナは!? ルーナはどうしたんですか!? 一緒にいたんでしょう!?」

「う......ぐぅ......」


 リオは何かを言おうとしていたが、苦しげに顔を歪ませるばかりだった。このままでは命が危ない。一旦ルーナの事は置いておき、リオを野営地まで運ぶ事にした。


「どうしたんですか!?」


 その時、誰かが声をかけてきた。ルーナ隊副隊長__ハイエナの獣人ジョエルだった。


「ジョエル副隊長! 何故ここに? 貴方もルーナを探しに来たんですか?」

「そんな所です! とにかく、リオを運びましょう」


 ジョエルとアランは二人がかりでリオを支えてテントまで連れて行った。不幸中の幸いか、他の者に見られる事はなかった。もしリオが深手を負っているのを見られていたら、金獅子の団全体がパニックになるだろう。テントでリオを寝かせ、ジョエルが応急手当てを施し、アランが金獅子の団の英傑達__ヘイグ、ベン、ヴィクター、グレン、ヘンリーを呼び出した。


 アランはリオの様子を見守りながらも、ルーナの行方が気になって仕方がなかった。


 ――あのリオを怪我させた誰かがルーナに何かしたのだろうか。


 だが、治療が終わり、リオは意識を取り戻した。そして彼は全てを包み隠さず話した。それは、アランとジョエル、そして英傑達全員を驚愕させる内容だった。


「......」

「......これを......ルーナが......やったのか......?」


 呆然とした声を出したのは副団長のヘイグだ。


 誰も予想しなかった。

 あれだけリオの事を慕っていたルーナが彼を斬って逃げたのだ。


 皆が顔を青ざめ、困惑する。重苦しい空気が漂う。


 リオを斬るという事は、すなわち、団を裏切ったという事だ。ルーナの裏切りは彼らの信頼を根底から揺るがすものだった。


 副団長ヘイグはリオの説明を聞き終わると、拳を握りしめ、声を震わせながら怒鳴った。


「あのクソアマ! 恩を仇で返しやがった!」


 怒りのあまり、普段の丁寧な口調が崩れる。

 一方ドワーフのヴィクターはいつものように飄々ひょうひょうとした表情でリオに尋ねる。


「一応聞くけどその右手使えそうー? リオ」


 リオは静かに首を横に振った。


「なんてことだ......」

「ふざけんな......」


 皆厳しい表情を浮かべる。

 両手を失うよりはまし、だなどと楽観的な事は言えない。リオが片手を失う事が金獅子の団にとってどれ程の損失か皆よくわかっている。無意識の内に額から冷たい汗を流す。


 再び重い沈黙が訪れる。


 だが、やがて一人が口を開いた。沈黙を破ったのは、アランだった。


「誰もルーナの心配はしないんですね」

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