113.ネズミ将軍(2)
一方、城壁の外では、獣公国の本隊とリオ達金獅子の団の本隊が衝突していた。敵の策により、リオ達は退却を余儀なくされた。一時は城門が閉じ混乱があったものの、つい先程再び開いた。次々と味方軍が城塞都市から脱出し、殿をたて、軍は逃げる体勢になっている。
「ルーナ隊は......ルーナはまだ城壁の中か!」
雨に濡れるのをいとわずリオが焦りのある表情で見渡す。ルーナ隊副隊長のジョエルを始め、デニスにケン、ヘンリー、アラン......ルーナ隊の面々が既に城塞都市を脱出したようだが、肝心のルーナはいなかった。中ではぐれたらしい。
そこに、伝令が馬を走らせてやってくる。
「報告! 西の塔にて数人のルーナ隊が交戦している模様。もって数分かと」
「西の塔......ルーナが城門を開いたのか。......今すぐ助けに行く! 第一隊俺に続け!」
「リオ待て!」
リオが馬を走らせようとすると、副団長ヘイグが行く手を遮った。
「もう本隊は退却し始めている! 今更城内に行ったら最悪敵地で孤立するぞ!」
ヘイグはどしゃぶりの雨に負けない大声でリオを止める。
「......」
リオは無視して先に進もうとする。
「おい、リオ!」
「......俺が、この状況で、引き下がらない人間だってことくらい、お前は、わかってるだろ?」
「......」
「どうしてもというなら、俺一人でも良い。ヘイグ、お前じゃ俺を止められない」
「お前に危険を犯させるわけにはいかない。それにお前はここを離れない方が良い!」
「......お〜い、お二人さん」
緊迫した空気の二人の元へ、ドワーフのヴィクターがまったりと馬を歩かせてやってきた。
「なあんか、妙だと思わな〜い?」
「ヴィクター後にしろ」
苛立ちながらヘイグが睨みつける。が、ヴィクターは「まあ聞けよ〜」と緊張感なく続ける。
「獣公国って今他との戦に追われていて青の都どころじゃないはずだよ」
「ああそうだ! だからこんな奇策を打ってるんだ!」
ヘイグは怒鳴った。対して、リオは何事か思う所があるのか、黙って耳を傾ける。
「でも、そもそも、貴重な兵力を割いて青の都を守るメリットが今の獣公国にあるかな。いーや、ないね。奴らの本当の目的は城を守る事じゃないよ、多分」
「......何が言いたい」
「だからさあ。獣公国はいよいよ信じているんじゃないの? ――かつてのダークエルフみたいに自分達を滅ぼすかもしれない『選ばれし王』の出現を」
ヴィクターはリオを見た。
「......。まさか、この戦の......敵の本当の目的は私達金獅子の団__いや、リオ一人の首って言いたいのか......?」
ヘイグが緊張の色を浮かべて聞いた。
「そうそう、その通り。だから敵はちゃんルナを狙う」
「......は? ルーナを、狙う......?」
「ああ、そうだよ。リオの弱点はちゃんルナ。それを獣公国さんは気づき始めてるんじゃない〜? だって最近、やたらとルーナ隊が狙われてるでしょ?」
数秒の間、雨音のみに包まれる。
やがて、ヘイグは低く唸るように口を開いた。
「......何故、もっと早くそれを言わない」
「あれ、気づかなかった?」
リオは何も言わず表情を引き締め、再び城門へ向かおうとする。
「リオ! 待て! 今の話を聞いたらますますお前を行かせられない!」
リオはキッと睨み、すぐに背中を向けて城門に馬を走らせた。
「くそっ! あの馬鹿っ」
ヘイグは思わず舌打ちをした。
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