95.ハーフエルフと人間は距離感がわからない(2)
ここまで読んでくださった方々、誠にありがとうございます!
ここら辺の回、登場人物が多いのでもし混乱があれば最初の章の登場人物紹介もご覧いただければ幸いです!
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「あら?」
すると、人混みの中でぱったりと知っている顔と出会った。牛頭の獣人、ルーナ隊の一員のデニスだった。デニスはルーナとリオの顔を見るや否や、「あ!」と声を漏らした。
「デニス?」
「る、ルーナ......おらは......おらは......!」
デニスは生気のない顔をして逃げるように去っていった。ルーナはデニスの様子に若干の不信を感じつつも、すぐにどうでもよくなる。
何故なら別の方角に、身内の汚点二人を目撃してしまったからだ。
「ガッはっはっは!」
「うわっはっはっはっは!」
金獅子の団6大英傑の一人ケンタウロスのベン。そして、ベンの下半身の馬の部分に小さな小男__ドワーフのヴィクターが跨っていた。二人は真っ赤になりながら大樽に入った酒を浴びるように飲んでいた。二人の周りには既に
「おい、あの金獅子の団六大英傑『戦場の鬼ヴィクター』と『破壊の執行者ベン』だ!」
「すげー俺、本物こんなに間近で見たの初めてだよ!」
二人の周りには人だかりができていて、今もどんどん集まってきている。彼らの好奇の目も気にせず二人は酒を飲み続けて何が面白いのかずっと爆笑している。
「ヴィクター様。ベン様」
そこに、うさぎ耳の若い獣人女性が二人を呼び止めた。彼女は同じくうさぎの耳が生えた赤子を抱き抱えていた。
「先日生まれた我が子に、どうか偉大なお二方から名前を授けて下さいませんか?」
「わははははは! そうだねぇ、『尻丸出し男』とかどーお?」
そう言って、ヴィクターは公の場にも関わらず、ズボンを下ろしてプリプリの尻を突き出す。
「『尻ぷりぷり男』とか!」
「ガハハハ! ネーミングセンス抜群だな!」
「ぷーり、ぷーり、お! ぷーり、ぷーり、ぷーり、ぷーり、お!」
「がはははは! 俺も! ぷーり、ぷーり、お! 俺のケツのがぷーり、ぷーり、お!」
ベンと酔った取り巻き達も、下卑た笑いをあげて「ぷーり、ぷーり、お!」と合唱しだした。
獣人の母親はドン引きして去っていった。
「ん? リオとちゃんルナじゃん」
最悪のタイミングでヴィクターはリオとルーナの存在に気づく。
「エルフ違いよ。行こ、兄貴」
「ちょちょい、待ち」
ヴィクター&ベンに阻まれて、ルーナ達は退路を絶たれた。
人々の期待の視線が一気にルーナとリオに注がれる。
ルーナは表情を歪めた。ルーナの顔は『赤い鎧』として知れ渡っていない。酔ったヴィクター達が下手な事を言ってルーナが『赤い鎧』である事を人々の前でバラさないか不安に思った。というかそれ以前にこの二人の関係者だと思われたくない。
「ガハハハハ! おい、リオ、お前だいぶ怪我良くなったみたいだな? なんならこの後、他の奴らも誘って飲み行かねえか?」
「いや、俺は今夜用事があるんだ」
「んもう、つーれーなーいー! 用事ってなによぅ」
ヴィクターが服の下に手を入れて擬似おっぱいを作り、腰をくねらせた。ちなみに、下半身はまだ脱いだままだ。ルーナは見苦しくて目を逸らした。
「アタシたちと酒飲む以上に大切な用事なんかあんのぉ?」
「ちょっと、ね」
「ちょっとってなによぅ! 浮気者!」
「うっさいわね。兄貴がちょっとって言ったらちょっとなのよ」
しつこいヴィクターに横槍を入れるが、ルーナもリオのこの後の用事を知らない。だが、深く探りを入れるような野暮はしない。
「それじゃ、俺はそろそろ行くよ」
そう言って、リオはルーナの頭を愛おしそうに撫でた。
「待って、本当に行くのぉ?」
「じゃあな」
リオは爽やかな笑みを浮かべて去っていった。遠くなっていくリオの背中を目で追いながら、ヴィクターとベンはニヤニヤした。
「......セーラ様かな?」
「いいや、俺は別の女だと睨んでるね。あいつだって味変したい時あるでしょ」
「兄貴が意味の無い事するわけないじゃない」
「意味無いわけないだろ。英気を養うことだって重要だ」
そんな会話をしていると、また別の声がルーナを呼び止めた。
「あ、いた......! ルーナ殿、ここにいたでござるか!」
声をかけてきたのはルーナ隊の一人__ミニケンタウロスのケンだった。彼はいつもの異国情緒の鎧は着ていなかったが、珍しい着物という衣服を着て人目を引いていた。ケンはルーナの隣にいるベンとヴィクターに軽く会釈する。
「ルーナ殿、少し......良いでござるか?」
ケンはいつも以上に真剣な眼差しだった。
「ルーナ殿に内密に相談したいことがあるでござる」
ケンはヴィクターとベンに目配せをした。
「......ええ、いいわ」
何かあったらしいことを察したルーナが表情を固くする。
「ちえ、なんだよ、ルーナまで俺らと遊んでくんないのかよ」
「たとえ用事がなくてもあんたらとつきあうなんてごめんよ」
ルーナはツンとそっぽを向く。口を尖らせるヴィクターとベンだったが、あっさりと諦めて仲間探しにどこかへ行ってしまった。それと共に、人だかりもいつの間にかなくなる。
「......話って?」
「ここでは......。ひとまず場所を移したいでござる」
*
ケンに連れられた先は、中央街の一画、民家に挟まれた裏路地だった。遠くの大通りの方で人々の楽しげな声と音楽が聞こえるが、ここは閑散としていて侘しい。ホームレスさえもっと静かな所に移動したのか、ルーナ達以外全く人がいなかった。
「来ましたか、ルーナ」
そこには驚いた事に、ルーナ隊副隊長であるハイエナの獣人ジョエルと純エルフのヘンリーも待機していた。彼らは神妙な面持ちで壁に寄りかかり、ルーナが来るのを待っていた。
「何があったの?」
ルーナの問いに答えたのはヘンリーだった。
「ルーナ、どうか落ち着いて聞いてほしい」
「......」
ヘンリーは躊躇うように一拍置いて、言葉を紡いだ。
「ルーナ隊に、裏切り者がいるかもしれない」
「......は?」
ルーナは、時間が一瞬止まったように感じた。
「......どういう事よ、それ」
重い沈黙。ヘンリーの口から出た衝撃の言葉に驚愕しているのはルーナだけだった。ジョエルやケンはもう既にわかっているように
ヘンリーはゆっくり言葉を選ぶように続けた。
「前の戦__謎のネズミ将軍が現れたあの戦、やっぱりなんだかおかしい気がするんだ。山間地帯のあの複雑な経路の中で、ルーナ隊の中でも僕達中心メンバーしか予めどこを通るか知らなかった。だけど、敵兵はそれが分かっていたかのように待ち伏せしていた」
「それは、偶然よ。敵はあの地形を熟知していてある程度いくつかあたりをつけて兵を待機させていた。それに、私たちは偶然ひっかかった。そうでしょ?」
「確かに、偶然、と言ってしまえば片付けてしまえる話かもしれない。でも、あそこに待機していた敵兵は全軍の3分の1以上はいたはずだ。偶然に期待するには博打すぎないか?」
「......」
「もし、偶然じゃなかったら?」
「......」
「ルーナ隊中心メンバーの内、もし誰かが情報を漏らしていたとしたら?」
「ヘンリーあんた、仲間を疑うっていうの?」
ぎろりと睨みつけるルーナにヘンリーは真剣な眼差しを返した。ジョエルもケンもヘンリーの話に口を挟む様子はなかった。
「......うん、そうだよ。酷な事だけど......。勿論、僕の思い過ごしだったらそれで良い。でももし......本当に万が一、内部にスパイがいれば、それは金獅子の団崩壊のリスクになりかねない。だから、僕らはこの件についてもっと真剣に話し合わないといけないよ」
「スパイって......。......」
その時、ルーナはふと気づいた。ここにはルーナ隊の中心メンバーが集っているはずだがいるべき者が一人いない。
「待って、ねえ、デニスは? デニスはこの話に加わらないの?」
「......デニスだ」
「......は?」
「――――デニスが、スパイかもしれない」
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