66.お姫様の初恋(2)

「あの、......もしかして、その方って、あのエルフの女性ですか......?」

「えっ」

「行賞の儀の時にいらしていた方ですよね? 確か、『赤い鎧』って言われていたような。それに、ダンスパーティーの時、噴水の傍で仲睦まじそうにしてらしたので、もしやと......」

「見てたのですか?」

「あ......いえ、その......夜風にあたりに出た時、少しだけ......」

「そうだったのですね。はい、そうです。あー、でもその子、エルフじゃなくてハーフエルフですよ。人間とエルフの」

「......!」


 セーラは目を大きく見開く。そういえば、行賞の儀でもそのような事を少し話していた気がする。


「ハーフエルフ......ですか。人間とエルフの血が交わるなんて......そんな奇妙な事が起こり得るのですね。私、初めて見ました......!」

「......ええ、よく言われます」

「彼女は女性なのに傭兵をなさっているのですか?」

「ええ。女ですが、とても強いですよ。金獅子の団は戦う気概があれば女も受け入れます。といっても、団の女はあいつ一人ですが」


 セーラはぱっと目を輝かせた。


「金獅子の団は多様性を受け入れると聞いた事があります......! ダンスパーティーの夜、ハーフエルフのその方もそうですが、ドワーフにケンタウロス、獣人、様々な種族の方達が仲良さそうに談笑なさっているのを拝見して、感銘を受けました。まるで、世界の縮図、平和の象徴のよう。ルーデル中の民達が種族の隔たりなく仲良くできたら、こんなに殺伐とした世界にならないのにな、なんて......あ、すみません、私ったら女の分際で出過ぎた事を......」

「いえ、まさに、貴方のおっしゃった事に深く共感致します。貴方は平和を愛する優しい方なのですね」

「そ、そんな事......」

「いいえ。戦の最前線に常に身を置くような人間が共感しているのですよ? どうか自信を持ってください。貴方の美しい理想を、もっと大事にして下さい」


 リオは優しく微笑んだ。


 ドッ、ドッ、ド......


 まだ、セーラの心臓はいつもよりワンテンポ早く音を立てている。だが、さっきまでの居心地の悪さはもうない。彼の笑顔を見ると、何か温かい物に包まれるような心地よさを感じた。


(ああ、きっと私、この方の事を――――)

「――あ、あの!」


 思わず、セーラにしては珍しい大きな声を出してしまう。リオは少し目を広げた。


「あ......その......、......明日、また遠征に赴くと伺いました」

「ええ、そうです。今回も大掛かりな戦になりそうですね」

「どうか......ご無事で......」


 その言葉に、リオはにっこりと笑みを浮かべた。


「ええ、ありがとうございます」



 その時、リオとセーラから遠く離れた建物の影に身を潜める者が居た。


 つりあがった目とたんまりと長いひげが特徴の小男、否、ドワーフの中年__ヴィクターだった。

 ヴィクターは誰に聞かせるでもなく、独りごちる。


「なるほどなあ、リオ。夢に貪欲なお前が、『実は王子だった』なんて重要な手札をあっさり諦めるはずがないよなぁ」


 ほぼ線に近い目の尻を、ほんの少し下げる。


「――狙いは、その子って事かい。つくづく食えねえ男だな、お前。だけどそれ、ちゃんルナがどうなるかまで計算に入ってるのかな? ま、俺はどーでもいいけど」

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