63.城外の小さなダンスパーティー
今回のダンスパーティー会場であるガルカト城の大広間から、外を出て裏側に進むと大きな噴水がある。そこは若い男女が華やかなパーティーから抜け出して密会をする、密かなスポットになっている。
だが、今日は秘密のカップルが誕生するロマンティックな展開は起きない。なぜなら、そこには3人の傭兵__ルーナ、ケンタウロスのベン、ドワーフのヴィクターが風情もくそもなく、だらーっと警護しているからだ。
警護、というよりもほぼ休憩に近い。ルーナは、噴水の縁に、ベンは地面に馬の足を折って座っている。ヴィクターに関しては縁で寝そべっている。他の比較的やる気のある、ヘイグや他の傭兵達は真面目に決められた位置について役割を果たしている。が、ルーナ達には黙ってぼうっと立っているのは至難の業だった。
「なにさぼってるんだよ」
そこへリオがやってくる。
「げっリオ」
ベンが明らかに面倒くさそうな顔をする。
「ちゃんと警護してるわよ。何人かの怪しい男女ペアがさっきからちらっと現れては私達を見て慌ててどっか行くのよね。これって私達役に立ってんじゃない?」
ルーナは悪びれずに言った。
噴水の縁で横になっていたヴィクターがとうとう鼻いびきをかき始めた。リオがヴィクターの鼻をつまむ。数秒後に飛び起きた。
「お前らなぁ......。もうちょっとしゃきっとしろ。天下の7大英傑の名が泣くよ。......今は6大英傑か......」
「だからちゃんと警護してるって。兄貴こそ何しに来たのよ」
「俺?」
リオはルーナの隣に座った。
「俺も『警護』だよ」
「わっは」
その時、
〜♪ 〜♪
会場の方から、盛大なクラシックの音が流れてきた。
「お、やってんね」
「この曲......ベン・ケンプより『愛の歌声』だ」
リオが言った。
「3拍子のリズムが安定的かつ明確で、曲の構造もシンプルだから、ベーシックな初心者用のダンス曲として重宝される曲だよ」
「ほげえ」
「さっき別の場所で警護してる時も他の曲聞こえてたけど、さっきから手堅い選曲だなー。選曲者は余程安全思考なのかも」
「まじでリオってなんでも知ってんのな。そういうのどこで習うん?」
「13の時、金持ちの家で使用人やってた時代があってさ。そこで少し教えてもらった」
「13って......。よくそんな前の事覚えてるよなあ」
「兄貴は忘れる事の方が少ないのよ」
「なんでちゃんルナが自慢気なん」
「そうだ、曲の難易度としても丁度良いし、お前達にダンスを教えてやるか?」
「え?」
ルーナは、小指で鼻くそをほじるベンと、暇すぎて顔面が崩壊しつつあるヴィクターを見た。
「このメンツで?」
「このメンツで。俺たち金獅子の団はこれからもどんどん大きくなる。そうなったら、今度は行賞の儀どころか、貴族の催し事に呼ばれるようにもなるかもしれないだろ?」
「良いじゃん。ちゃんルナつきあってやりなよ。俺ら見てるから」
「なんで私が」
「良いじゃないか、暇すぎて死にそうって顔してたぞ? ほら、お手をどうぞレディー」
片目を瞑ってウインクするリオに、ルーナは「はあ〜もう」と大きなため息をついて手をとる。リオはルーナの手を引っ張ってルーナを抱き寄せる。
「左手を俺の肩に乗せて」
「ん」
ルーナが言われた通りにすると、リオもルーナの腰に手を添えた。空いた片手でしっかりとルーナの片手を握りしめる。
「それで、足は......で、そうその形。......て......で......」
リオは型の指示を続ける。最初の形を作るだけでも結構時間がかかった。
(意外と密着すんのね)
ルーナは口には出さずぽつりと考える。胸もへそも相手にくっつく。
「そのままそのまま、じゃあまず最初はゆっくり動くよ」
「んー」
ルーナはリオの指示に従って、前へ横へと足を動かす。リオがゆっくりと「1......2、3、1、2、3......」とリズムをとる。何度か同じ動作を繰り返していくと、徐々に慣れていく。
「そうそう、良いね、その調子。その体勢を崩さないで」
〜♪ 〜♪
「じゃ、今度はこの曲が次のフレーズ入ったら曲に合わせて動くよ」
「んんっ」
少し余裕のない返事をしながら、ルーナは足の位置を整えようとする。
〜♪ 〜♪
が、その前に曲に合わせてリオが動き始めた。
「あっ!」
バランスが崩れて、ルーナは盛大にこけた。
「おっと」
リオがすぐに抱き留めた。
ルーナは顔をあげる。リオと目が合った。彼はにっこりと微笑んだ。
とにかく、近い。リオの温かな息遣いを感じる。
普通の女性ならば、リオのような美青年に密着されれば卒倒しそうなものだが、ルーナは昔ながらのこの距離感なので特に何も感じない。
「......」
いや、何も感じない、というのは少し語弊がある。
どきどき! と胸がときめくのではなく、リオに抱きしめられるとなんだか安心するのだ。自分がここに居てもいいんだという温かい感覚があって、それがとても心地が良かった。こんな事、気恥ずかしくてリオには絶対に言えないが。
「――もう一度だな」
「えええ、まだやんの?」
「良いだろ、どうせ俺達やる事なくて暇なんだから」
「いや、一応私達勤務中でしょうが」
「どの口が言うんだよ」
リオはどこか楽しげだった。
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