58.行賞の儀(2)
「――――金獅子の団なんて下品な傭兵団、うちには入れないぞ!」
第四王子アーサーは憎悪に満ちた表情でリオを睨みつけた。
「今朝、金獅子の団を名乗る女エルフに難癖をつけられ襲われた! 俺はそのせいで、行賞の儀に遅れたんだ!」
「女......エルフですか......」
リオもヘイグも顔が引きつった。
「うふっ、どうりで......」
すると、男が一人、アーサーを明らかに嘲笑うように目を細めた。第三王子マーティンだ。彼はアーサーと同じ赤い髪に碧い瞳を持つが、顔にそばかすがあり太っていた。
「広間がやけにすっきりすると思った。うふふっ、成る程、お前がいなかったのか。全然気が付かなかったぞ」
マーティンの言葉につられて、緑髪と片眼鏡が特徴の男__第二王子エドモンドが高らかに笑った。
「はっはっは! 私は片目の潰れた呪い子など、王子の内に入らないと思っていたのであ〜る!」
「......なっ、貴様ら......!」
今にも飛びかかりそうなアーサーを周りの貴族が止める。
「アーサー殿下、おやめ下さい! 皆が見てます! マーティン殿下、エドモンド殿下も人が悪い。軽いご冗談のおつもりでしょう?」
マーティンは鼻であしらった。その態度にアーサーはますます怒りを強める。
一方、リオとヘイグはアーサーの先程の言葉が未だ気になっている。
「あの......エルフ女って......」
「ところでヘイグ殿。先程自分より強い者が二人いると仰っていましたよね?」
ヘイグの様子に気づかず、貴族達は話しかけてきた。
「一人はレオナルド団長殿として、もう一人はどなたなのです? 先程から気になっていましたが、本日いらっしゃるのは3人と伺っていました。もしや、今いらっしゃらない方が、その方なのではないでしょうか?」
「え、ええ......」
「成る程やはり! して、その御方はどちらに......」
「......」
ヘイグは顔を青ざめて黙り込んだ。『こっちが聞きたい』と言いたげな顔だ。
見ると、まだ、王子達の口論は続いていた。
「うふっ、それで、その女エルフはどうしたのだ?」
「! それは......」
アーサーは明らかに動揺した顔になった。
「なんだ、もしや、逃げられたのか? たかが、女一人に?」
第三王子マーティンは溢れんばかりの笑みを浮かべた。
「ぶ、武装をしていたのだ! とても太刀打ちできなかった! きっとあれは暗殺者だったに違いない!」
実際は、ルーナは丸腰でただの平民服を着ていたのだが、アーサーは話を盛った。
「ん? 『太刀打ちできなかった』? 逃げられたのではなく? と言う事はお前は女一人を相手に尻尾巻いて逃げたというのか?」
「なっ......そんな訳__」
その時、
――――バンッ
再び、大広間が勢いよく開いた。
しん......
大広間が静まり返る。皆、新たに来た者に意識を奪われた。
珍しい赤い色の鎧に身をつつみ、鎧と同じだけ真っ赤な瞳のハーフエルフ。
「遅れて悪いわね、兄貴。ちょっとクソガキこらしめんのに時間かかってたのよ」
「ルーナぁ......」
リオは項垂れた。
「なに? 女......なのか? エルフ......?」
貴族達は困惑している。
「エルフじゃなくて、ハーフエルフよ。よく間違えられんのよね」
「そ、その赤い鎧は......」
貴族の一人が驚いた目をした。
「この女があの『赤い鎧』なのか......? レウミア城では一人で城に乗り込み50人斬りをしたっていう......」
「なんだと......? 化け物か......?」
貴族達がゴクリと唾をのんだ。
「あ......『赤い鎧』だと......? こいつが......こんな奴が、か......?」
アーサーはふるふると震える手でルーナを指さす。
「こ、こいつだ! こいつが俺を襲ったんだ! 誰かこいつを捕まえろ!」
ルーナはアーサーに気づいた。
「あーら、お坊ちゃんまた会ったわね」
「なっ! 貴様! アーサー殿下になんと無礼な物言いなのだ!」
アーサーの取り巻きらしい貴族が怒鳴った。
「おい、ルーナ......」
とうとう、ルーナの態度にリオは低い声を出した。それだけで、ルーナの長い耳がシュンっと垂れ下がる。
「な、何よ。言っとくけど、このガキが悪いのよ。女の子の前で父親を蹴りつけて......」
――――バタンッ
その時、再び大広間の扉が開いた。
「......」
「............」
「......」
「......」
ルーナが来た時とは比にならない、大きな緊張が大広間を覆った。
「ああ......ああああああああああああ」
奇妙なうめき声。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアア」
目を剥いた老人だった。
薄くなった金髪に白髪が混じっている、碧い眼の人間だ。
老人は豪華な服を上下どちらも中途半端に着て、薄くなった白い髪も整えきれていない。
そして、老人を大きく特徴づけたのが、左胸から右目までざっくりと緑色に染まった肌だった。
「へ、陛下!」
後から、王の白いマントを持った従者が追いかけてきた。
「わ、わしの、れ、レオナルド......!」
「お待ちください! まだお召し物が途中です!」
「うるさい! わしは見たのじゃ! わしをレオナルドが呼んでいたのじゃ!」
「それは今朝の夢の話でしょう!」
「ええい! うるさいと言っておろうが! レオナルド! レオナルド! ......!」
瞬間、王は、ある一点を見つめて凍りついた。
「レオ......なるど......なのか?」
その視線の先は、――――
――――リオだった。
「私が……分かるのですか、父上......?」
リオは掠れた声を出した。
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