57.行賞の儀(1)
新生ガルカト王国王都ロモント上級街の最奥に位置する大きな城__ロモント城。
城の大広間には今、国を代表する貴族や王族、そして3人の王子が集っていた。この国の王子は4人いるのだが、最後の一人がどういう訳か遅れている。だが、他の王子達はいない者を気にもとめていないようだった。
貴族達や王族達は皆競うかのように豪奢な衣服に身を包んでいる。一番多いのが人間、その次が獣人だが、どの獣人も獣度が低く、大抵は耳ぐらいしかない。彼らの中央には赤い絨毯が敷かれており、広間の最奥の壁にある巨大なステンドグラスの下まで伸びていた。ステンドグラスには美しい女神の姿が色とりどりに彩られていた。
巨大ステンドグラスの前には赤と黄金があしらわれた王座がある。しかし、今は、そこに座るべき者__ガルカト王の姿はなかった。
「金獅子の団!」
兵士が高らかに告げる。
大広間の巨大な扉が重々しく開いた。扉が完全に開くと、鎧を着た者が二人入ってきた。二人とも兜まで被っていて姿が見えない。一人は灰色の鎧に包まれているのに対して、もう一人は黄金の鎧を身に纏っている。二人は王座の前の二段ある階段の前で立ち止まった。
王の姿はやはり見えないが、王座の傍では、他の貴族に負けず劣らず絢爛豪華な衣装を身に纏った初老の男が立っていた。彼は元老長で、王がいない今、この場の最高位は彼だ。
「其の方らが、かの名高い金獅子の団か」
元老長は厳かに口を開く。
「陛下はまだご準備を終えられていない。行賞の儀はしばし待たれよ」
元老長に指示され、二人は兜を脱ごうとする。だが、灰色の鎧の方が先に兜を脱いだ時点で、声があがり、金色の鎧は手を止める。
「ヘイグ卿......! ヘイグ・フォン・アルデンヌ卿ではございませんか! 聖狼騎士団灰狼隊歴代最強の隊長とまで呼ばれたあの......! 貴方が金獅子の団にいるという噂は本当だったのですね!」
貴族の一人が、灰色の鎧の素顔を見て驚く。中身は、灰色狼の獣人__金獅子の団副長のヘイグだ。
貴族達が一気にざわつく。
「もう昔の話です、閣下。今の私は爵位を捨て、家と絶縁した身。ただのヘイグです」
「......お話は伺っております。当時はとても噂になりましたから。しかし、何故、貴方程の獣人が傭兵などやっているのです? 身分を捨ててまで......」
「ただ、私が求めていた剣の道がそこにあると思っただけです」
「な、なんという高尚な御方だ。......成る程、ようやく要領を得ました。貴方程の戦場の伝説が率いている金獅子の団なら、確かにここまで戦功を積み重ねる事ができたのでしょう。貴方は名実共にガルカト王国最強の戦士なのですから」
「お言葉ですが......閣下は何やら勘違いをなさっているようです」
「......え?」
ヘイグは貴族達にうっすらと笑みを浮かべてみせた。
「金獅子の団には、私より強い戦士が二人おります」
貴族達が一斉にどよめいた。ヘイグは彼らの反応を楽しむかのように微笑む。
「加えて申し上げると、金獅子の団団長は私ではありません。私は副長として、彼を支えているに過ぎません」
「彼って......」
ようやく、貴族達の関心がヘイグの傍にいたもう一人の鎧__金色の鎧に向けられた。
「この御方こそ......」
金色の鎧は再び自身の金色の兜に手をかけた。
「――――金獅子の団通称『金獅子』__団長レオナルドです!」
金の鎧__リオは兜を脱いで顔を露にした。
「......!」
金髪に赤い瞳の青年。平民というより、どこかの貴公子と言われた方が余程似つかわしい美しい容姿。
感嘆の声が響く。
「......な、なんと麗しい」
誰かが、思わず呟く。
「こ、この者が......団長だと仰るか......?」
「はい、そうです。彼が、金獅子の団を率い、ここまで我々を導いてくれました」
リオがにっこり微笑む
「ご紹介に預かりました、レオナルドです」
貴族達からため息がもれた。
「なんと......。若い......」
驚く貴族達の中で、一人密かに一段と驚愕している人物がいた。
「あ、あの時の......」
セーラはほんのりと頬を染めてリオの姿を遠目に見つめた。
ヘイグは満面の笑みを浮かべて、続けてリオを褒め散らかす。
「金獅子の団最強は彼です。そして、彼は人生で出会った中で、道を共にする最高の相手だと存じてます」
「......ヘイグ、そこまで言われると恥ずかしいよ......」
「素晴らしい!」
先程ヘイグの事を呼び止めた貴族が声を一段と高くして叫んだ。
「あのヘイグ卿......ヘイグ殿が認める程の実力の者がいるとは! 是非、第一王子アドルフ殿下率いる聖エルダ騎士団に入っていただきたいです! 金獅子の団を騎士団直属の特殊部隊として優遇します!」
「いいや待て! 第三王子マーティン殿下の刀剣騎士修道会はいかがか? 他の騎士団に比べて遠征が多く常に戦の最前線が多いためその分戦功をあげる事ができるぞ」
急に、貴族達がこぞって金獅子の団の取り合いを始めた。
ヘイグはリオにこっそり耳打ちした。
「(王子達はこぞって権力の奪い合いをしている。陛下は病に伏していて、元老長のお力がなければ今頃内戦だって起きかねない雰囲気だったらしい)」
リオは小さく頷いた。
「(ああ、今回の行賞の儀もこれが狙いなんだろうな。金獅子の団の力を誰が取り入れるか、4人の王子達が競い合っている。今後の身の振り方をよく考えていく必要があるな)」
するとまた、誰かが声を張り上げた。
「いいや、第四王子アーサー殿下率いる聖狼騎士団はいかがだろうか? 聞けば、ヘイグ殿は元灰狼隊隊長。うちに来れば......」
「――――金獅子の団なんて下品な傭兵団、うちには入れないぞ!」
バンッと勢いよく大広間の扉が開き、一人の少年が入ってきた。長い赤髪に片目が隠れた人間の少年。第四王子のアーサーだった。
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