49.凱旋、再び
「金獅子の団だ! 金獅子の団が帰ってきたぞ!」
ガルカト王国の王都ロモントの国民達は盛大な歓声をあげる。祝福と讃えの言葉と共に、金獅子の団が王都の門をくぐる。音楽と歓喜の歌が響き渡った。
「金獅子の団、またもや大活躍! 聖地ヴゴの森を取り返してくれたんだ!」
「トロール達の奇襲に怯まなかったんだって」
今回の聖地ヴゴの森の戦いにおいて、金獅子の団は聖狼騎士団のサポート、という形のはずだが、もはや、誰も聖狼騎士団の事など視界に入っていない。この歓声は金獅子の団を讃えるものだった。
「おい! 見ろよ! 『金獅子』__レオナルド団長だ!」
人だかりの中の一人が金獅子の団の先頭にいたリオを指差した。人々は一気に盛大な歓声をあげる。
「『赤い鎧』を負かしたトロール族長を討ちとったんだって」
「まじかよ!? あの『赤い鎧』がか?!」
リオは歓迎する王都の人々に手を振ると、兜をとった。
「――――っ」
人々は何度も彼の容姿に見慣れているはずだったが、それでも息をのまずにはいられない。
まるで御伽話から抜け出した王子様のような美しい容姿。金色の髪に燃え盛る炎のような赤い瞳。
「相変わらず、なんて美しいお姿なの......」
「どこかの貴公子様ではなくて?」
彼の美貌にため息をつく人々に対して、リオは柔らかな笑顔を向けた。
「妖精とも会話できるんだとよ」
「選ばれし者ってああいう人間の事いうんだな」
「おい、レオナルド団長ばかりに見惚れてる場合じゃねえぞ! 見ろよあれ、『黒き太陽』ゲイリーだ」
続いて、巨大な人間の男が王都の門をくぐる。
「や、やっぱ、でけえな......」
「迫力やべえ......」
人々は彼の図体の大きさに驚嘆を禁じ得ない。
ゲイリーはいかつい顔をしていて、一般男性が一人じゃ持てないであろう大きさのメイス型のモーニングスターを軽々と片手で持っている。リオとは別の意味で人々は息をのむ。
「聞いた話じゃ、巨大トロールの腕を真正面から受け止めたらしい。もう、人じゃねえよ、あれ」
「力だけなら金獅子の団随一だそうだ。もっと技量を磨けばその内『赤い鎧』や『金獅子』に匹敵する、......いや、それ以上の強さになるんじゃないかって言われてる。まさに金獅子の団希望の星だ」
「ば、化け物かよ......」
「俺、あんな強面の巨漢が襲ってきたらぜってぇちびるわ......。敵さんが寧ろ可哀想だな......」
と、その時、一際大きな歓声があがる。
歓声の理由は、『赤い鎧』__ルーナの登場だ。今回の聖地ヴゴの森の戦いでは一番の功労者はリオだったが、やはり、『赤い鎧』人気は伊達じゃない。
ルーナは他の面々とは違って兜を被って顔を出していない。赤い鎧を着ている時、滅多に一般市民に顔をさらさないのだ。
「あ、あれが『赤い鎧』様か......! すげえ......。本物だよ。遠くから見にきたかいがあった......」
「レウミア城戦の時には、一人で敵の城乗り込んで、軽く50人以上斬ったらしいぜ」
「俺、本物の化け物はやっぱり『赤い鎧』だと思うな......」
人々の中には『赤い鎧』に泣きながら祈りを捧げている者までいた。まるで新興宗教のようだ。
「相変わらず、ルーナの人気は凄まじいですね」
ルーナの後ろにいたアランは人々の熱狂に小さく苦笑する。少し前まで自分も、見上げる側だったから、彼らから見たルーナがどれだけ輝いて見えるかがよくわかる。
「ちゃんルナはわかりやすい『戦場の生きる伝説』だかんねぇ」
近くにいたドワーフの『戦場の鬼ヴィクター』が応えた。
群衆の最前列で子供達が赤い鎧をまとった人形を持って手を振っていた。子供達は周りの大人達に抑えられていなかったら今にも飛び出してきそうだった。皆キラキラした目で見ている。
一方、ルーナの方は、手を振ったり兜を脱いだりする事なく、無言で馬を歩かせる。
「ちょっと、ルーナ、少々無愛想すぎませんか?」
「......」
「ちゃんルナがこんな態度とってるのには理由があるんだよ〜、アラン君。あれ、見てみて」
ヴィクターが人々の方を指さす。
「『赤い鎧』は実は女って話知ってるか?」
「ああ、有名な話じゃねえか。あの鎧の中にバッキバキの筋肉女が入ってるんだって」
「僕は剣の仙人だって聞いたよ」
「いーや! 違うね! 頭にツノが10個ついてて、目が100個もある悪魔が入ってるんだ!」
民達が、『赤い鎧』の中身について、好き勝手言っている。
「皆が『赤い鎧』の素顔に期待するから気づいたら人前で顔だせなくなっちゃったんだよねぇ。同じ顔のヘンリーちゃんは普通に出してるけど、ちゃんルナは妙な所で見え張っちゃうから......」
「ああ......」
ヴィクターの言葉にアランも頷く。
「......」
ルーナが無言でわなわなと拳を握りしめた。
*
その日の夕方。建物の影が長く伸び、周囲が暗い。
金獅子の団の帰還に沸いていた住民達が落ち着きを取り戻し、いつもの静かな夜が始まろうとしていた。
しかし、とある一軒家ではけたたましい夫婦の罵声が響き渡る。
「お前が......だろ!」
「......が......!」
まるで嵐のようだ。
――――バンッ
家の扉を蹴破って、大柄な男__ゲイリーが出てくる。
更に、家の中から、泣きながらもう一人の女が出てきた。
「男の友情ごっこも大概にして! もっと私達の事を大事にしてよ!」
「ごっこ……? ごっこだと……。てめえ、金獅子の団を……俺の仲間をごっこ呼ばわりすんじゃねえよ。誰がてめえの分まで稼いでやってると思ってんだ、この粗大ゴミ女が!」
「最低! 死ね! あんたなんか死んでしまえばいい!」
女__ゲイリーの妻は大声をあげて泣き叫んだ。
すると、家の中からもう一人、少女が出てきた。少女は何をするでもなく、ゲイリーを見上げる。
「なんだよ」
「......」
少女はひたすら無表情だった。見た目はゲイリーと同じ黒髪に黒目の人間。体格差は段違いだが、ゲイリーと面持ちが似ていて、一目で親子である事がわかる。だが、ゲイリーの冷たい視線からは一切親子の情のようなものはなかった。
「お前気味悪いんだよ。こっち見んじゃねえ。また抉ってやるか?」
「......」
少女の体は傷だらけだった。
ゲイリーが睨みつけると、少女はすぐに家に戻って行った。
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