47.ルーナが傭兵をやる理由

「ああ! もう! 鬱陶しいわね!」


 ルーナが突然叫んだ。ルーナが暴れるが、妖精達が一向に離れる気配を見せない。


 すると、その内の一匹だけアランの方へ飛んできた。アラン、というよりはアランの近くに居た二匹の妖精が目当てだったらしく......


「......え!」


 アランは思わず声をあげた。やってきた妖精が、二匹の内片方の頬や額、唇に、ちゅっちゅっとキスをしだした。すると、


 ――――ぽんっ


 突然、アランの目の前で新たな妖精が現れた。


「今こいつらだから、こんなに湧いて出てんの。キスで繁殖すんのよ」

「まじすか......」


 5歳児を可愛がっている感覚だったアランは、急に妖精を見る目が変わってしまった。


 ふと、アランは気づいた。

 ルーナの周りにたかっていた妖精達は皆、度々ルーナの頬や額にキスをしていた。


(エルフが妖精の仲間って事はハーフエルフも仲間って事だよな? もし、この子ら全員オスだとしたら......)


 妖精達はうっとりとした表情でルーナに、ちゅっ♡ちゅっ♡とキスをする。


「う、うわあああああ!」


 アランは手をぶんぶんと振り回して、ルーナの周りにいた妖精達の中に割って入る。アランの拳は妖精達には当たらなかったが、成人男性の奇行ぶりに妖精達がどんびきしてどこかへ行ってしまった。


「繁殖行為されて困ってたんなら言ってくださいよ!」

「ふん!」


 ルーナはそっぽを向いてまた、酒を一口飲んだ。


「そもそも私はハーフエルフだから子供なんか産めないわ! 人間もエルフも妖精も、誰の子だって産まないわ! 『女』としての機能を果たさない私は『女』じゃないの! ......のに......なのに、妖精もゲイリーも傭兵達も兄貴もあんたも私の事を『女』扱いよ......」

「......」


 ルーナはまた酒を飲んだ。


「あの......聞いても良いですか?」

「......なによ」

「ルーナってなんで傭兵やってるんですか?」


 アランの質問にルーナは目を丸くした。


「初めて聞かれたかも」

「ははっ......あなた程、剣がふさわしい人はいませんからね。僕だって今日まで疑問に思いませんでした」

「......」

「でも、......なんでしょう。今日はやたらと、貴方がここにいるのがその......不自然なように思えてしまったから......」

「......あ?」

「す、すみません! 悪い意味ではなく! ええと、良い意味で? 不自然なように......と......。と、とにかく、悪く捉えないで下さい!」

「......」


 ビクつくアランに、ルーナはふっと微笑んだ。


「それを言ったら、あんたの方が余程不自然よ。家追い出されても教養はあるんだから、文官としてどこかで雇ってもらったり出来ないの? もう騎士じゃないんだから剣の道にこだわる必要なんてないでしょ。なんで、傭兵なんかやってんのよ」

「僕は......その......。握った剣にもう少しだけ、......もう少しだけしがみついていたいんです」

「......」

「......ルーナはどうですか?」

「......私は......」


《大事な人とずっと一緒にいたいのなら与えられるだけではだめだよ。与える人間にならなくちゃ》


 ルーナは随分前に、とある年老いたシスターに言われた言葉を思い出した。


「私は......ただ、大切な人の傍にいたかったから、その人の役にたとうとしただけよ」


 ルーナは、遠くの焚き火で談笑しているリオを見つめた。ルーナの赤い瞳はキラキラしている。


 その視線がはらむのは、恋慕なのか、親愛なのか、憧憬なのか。


 いずれにせよ、彼の存在を心から大切にしている事がよくわかる。


「あの......ルーナってリオ団長の事......」

「......」

「......いえ、なんでもありません」


 聞くだけ無駄だと、アランは察した。


(何が『考えるくらいはしてやる』ですか。やっぱり僕の入り込む隙なんてないじゃないですか......)


 アランは、ずきりと胸が痛むのを感じた。

 そんなアランの心情には気づかずルーナは続ける。


「......それに、これがなんじゃないかって思うから......」

「『贖罪』ですか......?」

「......子供の頃、沢山の人を虐殺したの。......親父や周りの大人達に好かれたくて......いや、言い訳なんかしない......できないわ。でも......」


 ルーナは、レウミア城戦の折の小さな女の子エマの顔が頭に浮かんだ。彼女は自分を見た時泣きながら喜んでいた。


「こうやって、兄貴と一緒に傭兵やってる中で色んな人が救われてる。これを続けてれば、背中のこの重ったるい何かがいつか消えるんじゃないかって......そう思ったの」

「......」


 ルーナは酒をまた一口飲んだ。




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作者です。ルーナの「『女』としての機能を果たさない私は『女』じゃない」という発言について作者の思想とは関係ありません、、一応明記しときます、、汗

あ、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます! コメントと♡も下さる方大変ありがとうございます!泣泣

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