30.戦の終結

 レウミア城戦は、金獅子の団の勝利に終わった。レウミアの民達は勝利に歓声をあげている。


 ルーナやアラン達がいる謁見の間でも、戦いが終わっていた。敵兵の数割が勇ましい死を遂げ、数割が剣を捨てて投降し、残りは逃亡した。アランや、エマを含む捕虜の女達は全員無事だ。


 すると、数人の獣公国の兵士達がやってきた。


「ルーナ隊長!」

「隊長っ」

「ルーナ! 無事だっただか!」


 アランは慌てて剣を構えた。


「剣を降ろしなさい。味方よ」


 ルーナの言葉にアランはほっと安堵した。どうやら、城門を開けた仲間というのは彼らの事だったらしい。


「す、すげえ......」

「10、20......何人いんだよ......」


 やってきた獣人達は、ルーナが斬った敵兵の死体の山に畏怖する。


「おら......おら、ルーナに何かあったらどうしようかと......もうずっと心配してただ!」


 牛の形相をした獣人が泣きながらルーナに抱きつこうとした。

 ルーナは容赦無く牛男の股間を蹴りつけた。アランは見てただけだが、ヒュンとなった。


「......貴方が動くのは私達と合流してからという話でしたでしょう? こんな大人数相手にルーナ一人で、しかも拘束された状態で戦ったなんて無茶しすぎです」


 今度は丁寧な口調のハイエナの獣人が困った顔で言った。


「別に。我慢できなかっただけよ」

「まったく、ルーナはアホの子なんだから__」


 ルーナはもっと強くハイエナ男の股間を蹴りつけた。ハイエナ男は泡をふいて倒れた。


「ルーナ殿っ!」


 今度はパッカパッカと馬の蹄の音が聞こえてきた。


「本隊が西の砦と北の塔を制圧しました! 某達の完全勝利ですぞ!」


 ケンタウロス......の子供だろうか、薙刀を持ち上半身だけ東洋風の鎧を身につけた戦士が走ってきた。


 ルーナは軽く頷いた。


「少年」

「?」

「あんたの事言ってんのよ」


 アランは自分の事を呼ばれてる事にやっと気づいた。


「あの......僕、これでも24なんですけど......」

「24!? リオと同い年だべか。見えね~」

「もっとガキかと思ったでござるよっ」


 ルーナの配下(?)達が驚いている。


「じゃあ、青年。一応聞くけどブルガン家はあの子以外どうなってるの?」


 ルーナがエマを顎で指す。エマは、他の女達と同様、疲れ果てて壁際に座り込んでいた。死体が転がった凄惨な光景から目をそらすかのようにぼうっと俯いている。


「それは、....................................、......亡くなりました」


 アランは一瞬、言葉に詰まった。


「......そう」


 ルーナは歩いて行き、エマの前で膝をついた。エマはびくりと顔をあげる。


「......」

「......」


 ルーナはかける言葉に迷っていると、エマの方が先に口を開いた。


「......『赤い鎧』様......なの......?」

「......」

「......」

「......ええ。......ごめんなさい、あなたの家族を守れなくて」


 とても静かな声だった。

 その声は、エマの心を強く打ち震わせた。


 初めて、エマの目から涙が溢れ、頬を伝って流れた。その小さな体は悲しみで震えていた。たまらなくなって、ルーナに抱きついた。


「......赤い鎧様が......赤い鎧様が助けに来てくれた......! 赤い鎧様が......っ......ぅ......えぇ......」

「......」

「ルーナ。とにかく、その子が体を休められる所へ......」

「そうね」


 ルーナが「立てる?」と聞くと、エマが首を横にふった。すると、ルーナはエマを背負った。


 少しだけ気持ちが落ち着いたのか、不意にエマがつぶやいた。


「......やっぱり。悪い奴は最後には正義の味方に倒されるのね」

「......。......今回が守る戦だった。それだけよ」


 ルーナは静かに言った。


「?」


 エマから見えるルーナの背中はどこか物悲しげだった。

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