29.レウミア城の開門
都市レウミアは巨大な城壁で街全体がぐるりと囲まれた城壁都市である。
ルーナ達が今いる謁見の間には人の三倍ぐらいの大きな窓がある。丁度、そこから街の門が見えるようになっている。
「――――じょ、城門が、開いたぞッ!」
全員一斉に窓の先を見た。
窓の先を見た時、アランは自分の目が信じられなかった。
本当に、城門が開きかけているのだ。
「そんな......何故だッ」
「何が起こっているんだ!」
獣公国の兵士達は狼狽える。
「仲間が獣公国の兵士のふりをして内部に侵入したのよ。森で私を捕まえたと偽ってね」
「馬鹿なっ! 獣族でない兵士を味方と間違える訳ないだろう!」
兵士の一人が牙を剥き出しにして怒鳴った。
『獣族』。『獣度の高い』獣人族が属する獣公国では、そう自称しているのだ。
「――――だから、その仲間はあんた達のいう獣族なのよ」
「......何......?」
「金獅子の団は誰であろうとどんな種族だろうと受け入れるわ」
「――っ」
アランは息をのんだ。
(金獅子の団は珍しい他種族の傭兵団だというのは聞いていた......。だが、獣度の高い獣人までも受け入れてるなんて......!)
一般的に、獣度の高い獣人族と他種族の確執は深い。同族の獣人すらも、獣度の高い獣人を毛嫌いする者が多い。同じ集団に属するなんてありえない。それは騎士団でも兵団でも傭兵団でも同じ事だ。
ガルカト側の兵に獣族なんかいない_そんな固定観念を利用して獣公国に味方を忍び込ませたのだ。
(しかも、そんな危険な作戦、余程の信頼関係がないと成り立たないはずだ。それを金獅子の団はやってのけたっていうのか......?)
その時、城門が完全に開き切った。
開いた門から軍が入ってくる。――――軍は、ドラゴンの旗__ガルカト王国の旗を掲げていた。
そして、軍の中心に一際目立つ、金色の鎧。
金色の装甲に身を包み、まるで太陽そのものから生まれたかのように神々しく輝いている。
「あれが......『金獅子』......」
遠目に見ているだけのアランでさえ、その姿を見て、一瞬涙がでそうになる。それほどまでに金獅子の姿は力強さと崇高さに満ちていた。
その時、敵も味方も、誰もが、金獅子に目を惹かれていた。
『金獅子』はゆっくりとロングソードを高く掲げた。その剣は光を反射し、まるで勝利の確信を知らせるように輝いていた。
「――――おおおおおオオオオオッッッ」
レウミアの民達は一斉に大きな歓声をあげた。声は激しく広がり、雷鳴のように大地に響き渡った。
金獅子の団の軍が動き、獣公国の軍と衝突した。士気の高まった金獅子の団に対して、獣公国は総大将を失っている。統率が崩れるのも時間の問題だ。
――そして。
戦場で、特に目をひく戦いを見せる戦士が6人。__金獅子の団の7人の英傑が姿を現した。
『炎の死神ヘンリー』。戦場に炎が一気に燃え上がる。戦士の持つロングソードは炎に包まれ猛烈な熱を帯びている。敵兵は炎に圧倒され、焼きつくされた。戦士は耳の長いエルフ。炎を自由に操る様は、歴史に残るダークエルフを思わせた。
『断罪のヘイグ』。狼耳の生えた獣人が誇り高い佇まいを見せた。鋭利な刃のバトルアックスを敵陣に向かって振り下ろす。空気を引き裂き、疾走する竜巻のように周囲を薙ぎ払った。
『狂戦士グレン』。禍々しくドス黒いロングソードを人間の戦士が握る。それはダークエルフの呪いがかかった伝説の魔剣。周囲に忌まわしい気配を漂わせた。
『戦場の鬼ヴィクター』。ドワーフの戦士は自身の倍はある大剣を力強く振り回す。大剣の刃が空気を裂き、重い音を立てながら敵を叩き斬る。
『破壊の執行者ベン』。巨大なハンマーを持つケンタウロスが、敵の軍勢に向かって猛烈な一撃を放った。
『黒き太陽ゲイリー』。大柄な体躯の人間はメイス型のモーニングスターを振り回す。それはながら黒い太陽。戦士の腕力と技力は驚異的で鋭い針が敵の鎧を貫いていく。
そして__
「それで、あんたらどうすんの?」
金獅子の団英傑の中で最も有名で、最も恐れられている『赤い鎧』__ルーナは、目の前の兵士達に問いかけた。
「あんたらこっから敗残兵よ。死にたい奴だけかかってきな」
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