25.ガルカト王国の滅亡
「――た、助けてください! 息子だけは! 息子だけはどうかあああッ」
血飛沫があがり、男が抱く子供と共に倒れる。
都市レウミアは陥落した。獣公国によって支配され、住民達は敵兵に蹂躙されていた。女達は捕まり重い枷でつながれる。家々が焼かれ、泣き叫ぶ子供が斬られる。
地獄の光景だった。
惨劇の中、レウミア城の謁見の間にてアランは拘束されていた。
熊男は、本来領主が座るはずの大きな椅子にどかっと腰掛けた。周りには50人程の兵士に囲まれている。全員敵兵だ。
「お前の父親は阿呆だ」
熊男はアランに向けて吐き捨てるように言った。
「ブルガン家の娘達は美人揃いだと聞いておったのに、それを殺してしまったとは。なんと阿呆な事をしてくれたのだ」
「この者を殺しますか?」
兵士がアランに剣を向けた。
「......っ......」
「よい。剣をしまえ。この者は一応現総騎士長らしいが、まあ、境遇に少し同情している。どうだ、青年。同じ獣の血が流れる者として、獣公国に服従する気はないか? 良きにはからってやるぞ」
「......っぼ、僕は......」
断った瞬間、剣を向けられ首を切り落とされるかもしれない。そう考えた途端、アランは言葉に詰まった。
「......」
「カッカッカ! 黙りこんだぞこいつ! 誰がお前みたいな雑魚を仲間に引き入れるというんだ!」
「......! なっ......」
「カッカッカ! やはり面白いな此奴は。良い暇つぶしになる。すぐに殺すのは惜しい」
アランはプライドを踏み躙られ、顔が赤くなった。
「おい、そこのお前」
「はっ」
熊男に指名された兵士の一人が前に出て膝をつく。
「お前は確か一年目の新米だったな。お前がこの者だったらなんて答える?」
「『死ぬまでガルカトの騎士だ。誰が貴様らなどに服従するか』と言ってやります。正直言って、そこの捕虜は同じ戦場に生きる者として見るに堪えません。名家の騎士の息子だというのなら尚更です。私なら舌を噛み切って死にます」
「......」
「カッカッカ!」
熊男は愉快そうに腹の底から大笑いした。
「イキがいいのう。だが、そのガルカトがもうじき滅ぶとしたら、どうだ?」
「......?」
「やはり理解しておらんかったか」
熊男は残念そうに首をふった。
「ここレウミアは地理、流通様々な面で、中枢の都市だった。ここを取ったら後は儂らにとって王都攻めなど容易い事。わかるか? ここは実質ガルカトの心臓部だったんだ。ガルカトは今複数の国と紛争しているが、多少無理をしてもここに増援を寄越すべきだった」
「......そ......んな......」
アランは枯れた声を無意識に出した。
「ガルカトは滅びる。何千年と続いた原始の国が今、終わろうとしている。......時代が、変わろうとしてるのだ。そうして台頭するのが我々、獣公国だ」
「閣下!」
新米の兵士が膝をついた。
「自分が不学でした! この戦がそのような局面だったとは......! どうか愚かな私を罰してください!」
「よいよい。もう下がれ」
「はっ」
アランは熊男達の一連のやりとりを、観劇するかのようにぼうっと眺めた。
――ガルカト滅亡
あまりにも現実離れした言葉に脳みそがついていけない。
「閣下! 女どもを集めてきました!」
話の途中で、複数の兵達が謁見の間にやってきた。彼らは、腕を拘束した女達を連れてきた。
熊男は嬉しそうに立ち上がった。
「よくやった! もうレウミアは男しか残っておらんのかと思っておったぞ!」
女達はざっと十数人。ほとんどがメイド達で、数人一般市民が紛れていた。城下で捕まえてきたのだろう。そして__
「......!」
アランはゴクリと唾をのんだ。女達の中に一人だけ幼い少女が紛れ込んでいた。少女はアランと同じ猫耳と尻尾のある獣人だ。
(エマ様......!)
少女はブルガン家の末娘エマだった。アランの父が殺したブルガン家の一族の中で唯一エマの死体だけはなかった。
エマは逃げのびていたのだ。だが、敵兵に捕まってしまった。
「そ、その女達をどうするんだ」
アランは震える声を振り絞った。
「知れた事よ」
熊男はねっとりとした視線で女達を見つめた。
熊男はある一人の女の前で立ち止まった。エマではなく、メイドの一人だった。メイドはアランも顔馴染みの女だった。普段は、気立てが良く明るい子だ。
メイドは顔を青白くして、熊男と目が合わないように下を見つめていた。
熊男はニヤリと笑った。
「――――!」
熊男は一気にメイドの服を破った。白い肌が剥き出しになり、メイドは拘束された腕で胸を隠した。
「......」
熊男はメイドの頬に舌をつけた。少しずつ、少しずつ。下へ這わせていった。
「......して下さい」
「......あ?」
「私を殺して下さい! 辱めを受けるくらいなら、いっそ死んだ方がましよ!」
メイドは熊男の顔にぶっと唾を吐いた。
「――――ッ」
熊男は、メイドを殴った。
「......っ__ィ」
メイドは涙を必死に堪えた。頬が赤く腫れ上がっている。
熊男はニヤリと牙を見せた。
「此奴を寝室へ連れて行け」
熊男が兵士に命令する。兵士達はメイドの両脇を抱えた。
「い、嫌......っ......」
その時、アランはメイドと目が合った。メイドは死人のように顔が蒼白だった。普段の彼女からは想像できない恐怖と屈辱の表情。
『助けて』
潤んだ瞳は、確かにそう訴えていた。
「......っ」
しかし、アランは何も言えず、何もできず。メイドからすぐに目をそらした。悔しさで頭がどうにかなってしまいそうだった。
兵士たちがメイドを連れていこうとする。
すると、
「ま、待ちなさいっ」
少女の声。アランはヒヤリとした。
声をあげたのはエマだった。
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