24.雑魚
「......はぁ......はぁ......」
カラリと音を立てて、アランの父__騎士長の手から剣が落ちる。首についた傷は浅く、呼吸を荒げながら地に手をついた。
「情けないのう。自分で死ぬ事もできんとは」
「......ち、父う__」
____ザクッッッ
肉を斬る、鈍い音がした。
アランは両目をカッと見開いた。
騎士長は熊男の大剣で、体が真っ二つに引き裂かれた。騎士長の体は、血が嘘のようにドクドクと流れ、もはやそれが元々生き物だった事すら信じられない惨状だ。
アランの父は死んだ。目の前で、敵兵に殺されたのだ。
立ちすくむアランに向けて熊男は残忍な笑みを浮かべた。
「獣公国軍総大将ドンだ。まあ、名乗った所で、お前みたいな雑魚、すぐに殺してしまうがな」
アランは完全に思考が停止した。
「......はぁ......はぁ......」
――でかい。
熊男はアランの頭数個分も上回った体格だった。その手に持つ大剣すら、アランの身長といい勝負だった。そして、見た目以上に、熊男のオーラが、何かとてつもなく大きな化け物のように感じられた。
「ディアズ騎士長__っ!」
「せめて貴様を殺して死んでやるっ」
3人の兵士たちが廊下から転がるように入ってきた。廊下にはもう既に獣公国の兵士達が何人も侵入していて、混戦となっていた。
兵士達は熊男に飛びかかる。
「――――フンッ」
大剣がかまいたちのように兵士達を同時に引き裂いた。あっという間に血の海と化す。
アランは吐き気を堪えた。
最早、家族が死んだ事すら今はどうでもよくなっていた。
自分もこんな風に死ぬかも知れない。虫ケラのように何の功績も上げず、誰にも知られる事なく。
(に、逃げなきゃ......)
勇敢に死んでいった兵士達を目にして、アランの中で閃いたのは『逃走』だった。それを恥じる余裕すら今のアランにはなかった。
「......っはぁ......はぁ......はあっ!......」
アランは咄嗟に出口を見た。だが、熊男が立ち塞がっている。アランは恐怖で気が遠くなりそうなのを感じながら、剣を構えた。
(一発......一発食らわせて、怯んだ隙をついて、逃げるんだ)
「なんだ、出口ばかり見おって。玉砕覚悟で闘う気概もないのか」
熊男はまるで子供の遊びに付き合っているかのように、大剣を構えた。
――強い、なんてものじゃない。
目の前の男はこんなにも、アラン達を小馬鹿にして適当に剣を構えているだけなのに、絶対に越える事のできない壁のように感じる。
アランの鎧の中は、汗でぐっしょりだ。
「......や、やあああああああっ!」
アランは雄叫びを上げて駆け出した。
「__フンッッ」
「――――っ」
途端、容赦のない凄まじい力でアランの体は横に吹っ飛んだ。熊男は大剣の側面でアランの体を薙ぎ払った。アランは壁に強く体を打ち付け、気を失った。
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