20.ロバになるリオ

「エルフの子供? ......知らんな」


 鳥男が、しらを切る。

 狐男は外にいるリオに聞こえないように小声でルーナに言った。


「お前とよくつるんでるっていう人間のガキじゃねぇか。こりゃいい。商品が増える」


 狐男がニンマリと口端を釣り上げる。ルーナは痛いほど心臓の鼓動が強くなるのを感じた。


(な、なんで、こんな所に兄貴が......? もしかして、ずっと私の事探してたのかな。......どうしよう! このままじゃ兄貴までロバにされる!)


 ルーナの焦りをよそに、鳥男とリオが会話を続ける。


「そうですか......」

「何かあったんかい?」

「喧嘩したんです。それで、あいついなくなっちゃって」

「そうか......」


 鳥男は考え込む演技をする。


「そういえば、さっき知り合いがそれっぽいのを見かけたって言ってたような......」

「本当ですか!?」

(兄貴、ダメ......! 兄貴!)


 ルーナは必死で叫ぼうとするが、口を封じられている。


 ルーナは貧民街のテントで二人で暮らしていた時の事を思い出した。

 

 いつも、ルーナにしか見えないあの赤い線はリオを無数に取り囲んでいた。

 リオは隙だらけだった。


 その気になればいつでもルーナはリオを一瞬で殺す事ができた。勿論そんなことする気はない。だが、剣に多少心得のある者なら、日常生活の立ち振る舞いからも、隙のなさが伺える物だ。リオは戦場を経験しているらしいが、街で遊んでいる子供と変わらないくらいに隙があった。きっと、リオは弱い。少なくとも、ルーナよりは弱い。リオが獣人達相手にかなうはずがない。特にルーナの目の前にいる、獣人達のお頭__狐男は相当強い。捕まったが最後逃れる事はできないだろう。


(兄貴......! 兄貴、今なら間に合う! 逃げて!)


 ルーナは思い切り近くにあった木の椅子を蹴飛ばした。ガタッと音が出た。


「中に誰かいるんですか?」

「いや、俺は一人暮らしなんだが......」


 鳥男は入り口付近に置いてあった棍棒を、リオに見えないようにこっそり掴んだ。


「......ネズミでも入ったんかな」

「それは......」

(兄貴......!)


 ルーナはぎゅっと身体中に力をこめた。


「それは、俺の妹分の事か、クソ野郎」

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