15.初めての「友達」

 振り返ると、さっきのネズミ少年だった。ネズミ少年は深々と被っていた帽子をとった。


「ドラゴンのペンダント買えなかった組かい?」


 ネズミ少年の小さな口が動く。その度に、横に伸びた数本のひげがモソモソと、頭についた小さな耳がピクピクと微動する。白目のないつぶらな瞳がルーナを見た。


「あ、さっきの......! えっと、」

「ロビーだよ」

「私はルーナ。さっきはありがとう、ロビー」

「いいよ。さっきは災難だったね。あいつ、ゲイリーっていうんだけど、誰にでも噛み付く嫌な奴なんだ。父親が騎士団のお偉いさんなのを鼻にかけて、他の子供達を見下してんのさ」

「世の中そんなむかつく奴がいんのね!」


 ルーナは怒りではらわたが煮えくりかえりそうになった。


「今思えば、あんな奴さっさと顔面ぶん殴っとけば良かったわ! あの時は兄貴との事があった後だから、私どうかしてたのよ」

「お兄さんと? 何かあったの?」


 ロビーは首を傾げる。

 ルーナは一瞬迷ったが、これまでの経緯を話した。お互い一人ぼっちだった知らない少年と兄妹になった事、一時期屋敷で世話になったが今はリオと二人で貧民街に暮らしている事などを話した。最後には、神様と父親の事で喧嘩になってしまいリオの大切な楽器を壊してしまった事まで話した。


「なるほど、随分大変だったんだね」


 話が終わる頃には、ルーナはまたすっかり落ち込み、長い耳がシュンッと垂れ下がっていた。


「兄貴が悪いのよ。聖書を捨てるなんて酷すぎるわ......」

「大事な物を捨てられちゃうのは辛いよね。......うーん、......そうだ!」


 ロビーは近くに落ちていた小さな木を拾い上げる。ロビーは木を歯でくわえた。


「かりかりかりかりかり」

「......え!?」


 物凄い速さで木が削られていく。


 数分後には、人の顔?に見えるような木彫りが完成した。


「一応、女神様の顔に彫ってみたんだけど......」

「す、すごいわ! 歯であっという間に彫っちゃうなんて!」

「へへっ僕の密かな得意分野なんだ。女神像っぽくなったかな。聖書の代わりって訳じゃないんだけど、もし良かったら、これあげるよ」

「! いいの?」

「うん」


 ルーナは顔を輝かせて手作りの女神像を受け取った。


「ありがとう!」

「大した事じゃないよ。あのさ、もしよければ僕とになってくれないかな」

「......! 『友達』......」


 ルーナは、聞き慣れない単語が一瞬頭に入らなかった。


「あっ嫌なら別にいいんだけど......」

「ううん! 友達になろ!」


 ルーナは微笑んだ。


「よかった、嬉しいよ。......あのさ、僕、ルーナに見せたい物があるんだ」

「何?」

「秘密の場所。こっち来て」


 ロビーは四つん這いになって歩き出す。


「あ、ごめん、下品だよね」


 慌ててすぐに立ち上がった。


「? 気にしないよ」

「! ありがとう。こっちの方が腰痛くならないんだ」


 ロビーは再び四つん這いになって歩き出した。ズボンと服の裾の隙間からのぞいた尻尾を、上機嫌にぶんぶん振っていた。

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