7.夜明け
「ほら、見て。月も星も皆宝石のようにキラキラ光ってる」
死体を積んだ馬車に揺られながらリオは夜空に指をさした。
「きっとあそこに妖精の国があるんだよ。」
ルーナは、赤い瞳をまんまるに開いて空を見る。
たしかに、夜空は美しかった。リオの言う通り、きっとどこかに妖精の国があるのだろう。
「いつか妖精の国に行くんだ。だって、俺は王子だから。」
「......王子様......」
ルーナはさっきまで絶望の縁に立たされていたのが、急に不思議な気持ちになった。なんだか物語の世界に入ったような不思議な気持ちだ。
「本当に?......本当の、本当に兄貴って王子様?」
「ん、そうだよ」
「王子様ってお城にいるもんじゃないの?」
「んー今は悪いやつらが城にいて帰れないんだ」
驚くほど整った顔や綺麗な金色の髪。それに、リオはルーナよりも沢山の事を知っていそうだし、子供とは思えないほど大人びた表情を見せる。まるで物語の王子様のようだ。
「す、すごぉ......」
「あれ、そんな簡単に信じるんだ」
「え、嘘なの?」
「いや、本当だけど。だって普通、俺王子ですって言われたら信じないだろ」
「信じるよ。兄貴の言う事だもん」
「ふーん」
リオはどうでもよさそうな返事をした。だが、口元はうっすらと笑っているように見えた。
ルーナはもうすっかり涙がひっこんでいた。
気持ちが落ち着いてきたせいか、ルーナは猛烈な空腹に襲われた。ルーナは空腹で痛むお腹を抑える。
「ほら、これ食え」
リオは持っていた袋の中からパンを取り出した。
「え、いいの?」
そういうルーナの手はすでにパンに伸びていた。ここ数日まともな物を口にしていなかった。挙句、心身共に消耗した状態で街を走り回ったのだ。腹がすいて仕方がない。
ルーナはリオの返事を待たずにガツガツ食べ始めた。
「なんかお前、妹っていうよりペットみたいだな」
「......っな!どこがよ!」
ルーナはピンっとイカ耳にし、頬をぷくーっと膨らませた。
「あ、兄貴の分......」
ほぼパンが無くなった所でようやくリオの分を残していない事にルーナは気がついた。
「いいよ、俺のはまた盗むなりなんなりで手にいれるから。ついでに言うと、ここに大量の肉もあるんだけど」
「え!」
ルーナが顔を輝かせた。リオは隣で横たわる死体の山に視線を送った。ルーナは落胆した。ルーナの様子にリオは吹き出す。
「そんなの食べられる訳ないでしょ......ってまさか、兄貴......」
「流石の俺も生はきついよ」
「生はって......」
「戦場でやばいくらい空腹な時もあって。な」
ルーナは絶句した。
「......ハーフエルフってどんな味なのかな?」
「や、あ、あああ兄貴!」
「ははっ、冗談だよ」
「冗談ってどこまで......?」
「さあ」
リオはまた吹き出した。リオは普段表情は大人だが、笑う時は無邪気な子供の顔に見える。
ルーナは死体を見て、そして夜空を見上げた。
「......この世界も、妖精の国みたいに綺麗な所になったら良いのに」
「......なるよ」
「......?」
「なる。だって俺王子だよ? 王子って事はいつか王になるんだ。王様になったら、国を、世界をこれでもかって言うくらい綺麗にするんだ」
「!」
「誰もできないなら、俺がやってやる。俺がこの世界を妖精の国にするんだ」
「......兄貴って。兄貴って、本当にすごい奴ね」
リオはやわらかく微笑んだ。
「実は、俺、今日が誕生日なんだ」
「!」
「だからさ、ルーナは多分誕生日プレゼントなんだと思う」
「誕生日プレゼント? 兄貴への? ......誰からの?」
「さあな。......」
ふいに、辺りが明るくなった。ルーナは目をしばたたかせる。
「......夜明けだ」
死体の山の向こう__荷馬車の向かう先の先から白い光が差し込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます