4.盗み
「どうした?......こいつは珍しいな。赤い目のエルフだ」
「ひったくりだ!こいつ俺の財布を盗もうとした!」
男はルーナの腕を折れるのではないかと思う程強く握り上にひっぱりあげた。周りが驚いてどよめく。
「あ、あの......私......盗もうとしたんじゃない......!袋が......落ちそうになってたから元に戻そうとしただけよ......!」
「この期に及んで何抜かしやがる!」
「......っぃ......! 痛い!」
男はルーナの右頬を思い切り殴った。倒れたルーナの腹に蹴りを入れる。
「来い! 衛兵に突き出してやる!」
「や......!や、やだ......ごめんなさいごめんなさい!」
男はルーナの腕を強引に引っ張り上げる。ルーナは抵抗したが、男の手を払う事はできなかった。子供のひったくりなんて街ではそんなに珍しくなく、あっという間に周りの人々は興味を失せてしまった。ルーナを無理やり連れて行く男を誰も気に止めない。
ルーナは喚いたり抵抗したりしながら引きずられるように男に連れていかれる。
ある時、人気のない細道に入る。突き当たりで地面に投げ出された。
(......衛兵のとこに......連れて行くんじゃないの?)
「ははっなんで?って顔してんな。気が変わったんだよ」
男は真っ黄色の歯を剥き出しにして口角をつりあげた。
「俺エルフって初めて見るんだけどよ、結構いい顔してんな」
男のゴツゴツとした手がゆっくりとルーナの首筋をなぞる。
「......ひっ......」
ルーナが逃げようとすると、両肩を掴まれて地面に押し付けられる。男の力はとても強く、ルーナでは抵抗できなかった。
「......や、やめ......。......だ、......あ、......誰かああ!!」
恐怖で喉が締め付けられる感覚に襲われながらそれでもなんとか叫んだ。
再び大声を張り上げようとすると頭を地面に叩きつけられた。
「......ッ」
「大声だすんじゃねえよ」
衝撃で、ぼんやりとルーナの意識が遠のく。
「はあ......はあ......脇、脇......いい。はあ......エルフはどんな味かなあ?」
べとべとした男の舌がルーナの脇をなぞった。
「......ッ........................」
「ひひっすっぱい......すっぱいなあ。レモンだ。......はあ、じゃ、こっちはどうかなあ」
「......い......」
「......はあ......はあ」
「......っ......」
「......はぁ......は......」
「......ッ......」
「......はぁ......」
「............」
「......」
「............」
「......」
「......」
「......」
「......」
「......」
(............あれ?)
一瞬、ルーナは幻覚が見えた。
傭兵団にいた頃の幻覚だ。周りの男達は戦いに勝って喜び勇んでいる。なんの場面だろう。戦に勝ったのか、村を襲ったのか、それとも隊商? 何はともあれルーナにとってはいつも通りの光景だ。傭兵達は男を皆殺しにし、女を犯している。ルーナは隅で晴れやかな気持ちで勝利の風景を眺めていた。だが、徐々に気持ちが曇って行く。傭兵達に犯された女から何故か目が離せない。さっきまでぼんやりしていた女達の顔がはっきりとしてきた。
女達の顔はルーナだった。
「......ッ......」
気づけば傭兵の姿も変化していた。両目が釣り上がり、口から大きな牙がはえて頭に大量の目がついていた。化け物の姿だ。
「......はあ......ぁ......頭強くぶつけすぎたか?ヤる前にくたばんじゃねーぞ」
「......」
男の声と共に現実に一気に引き戻される。......はずだが、まだ幻覚は続いていた。今まさにルーナを襲っている男がさっきの化け物の姿になっていた。
ルーナは、化け物の、丁度首元に赤い線が伸びている事に気づく。赤い線はどこから伸びているのだろう? ルーナはゆっくりと目で赤い線をたどった。男の、いや化け物の腰に短剣が装備されていた。
「............は......もう限界だ......」
男がルーナから片手を放してズボンに手をかける。
*
「......!」
1秒もたたなかったかもしれない。
気づけば、化け物は血だらけになって倒れていた。ルーナもまた、血だらけだったが、これは全て返り血だ。ルーナの手にはさっきまで化け物が腰に下げていた短剣が握られていた。しばらくしてやっとルーナは思考が追いつく。
ルーナは男を殺した。
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