2.片足を失ったバリー

 バリーは、傭兵団の団長だ。傭兵、といってもほとんど盗賊まがいの事をする時もある。

 ルーナは、バリーの娘だ。ルーナの母親はバリーが襲ったエルフの村の女。バリー曰く、母親がどうなったのかよくわからないが死んではいる、との事だった。エルフは銀髪に銀色の目を持ち人形のように整った顔だちで、老若男女問わず皆同じ顔をしているらしい(丁度ルーナの赤い目を銀色にした顔だ)。捕まえたエルフの内、どれがルーナの母親かわからなくなったのだ。

 捕虜のエルフが赤子を産んだ時、それはもう大変な騒ぎだった。エルフにしては耳が短く、赤い瞳のエルフなんて誰も見た事がなかったのだ。闇商人に話を聞くと、その子はハーフエルフである事がわかった。エルフは他種族と血が混ざる事がないとされている。だが、本当にごく稀に、ハーフエルフが産まれるのだ。


 つまり、ルーナは、捕虜のエルフと傭兵の誰かとの間に産まれた子供だ。


 傭兵団の誰もが心あたりのある中でバリーが頑なに自分の子供だと主張した。唯一父親の手がかりとなりそうなのはルーナの赤い瞳だが、傭兵団にはそんな色の目を持った人がいなかった。

 ルーナは、バリーの子供になった。

 バリーは昔から傍若無人な性格で、父親としての責任なんてものは果たさなかった。ルーナを自分の子供にしたかったのは単に珍しい物に対する所有欲だ。だが、ルーナにとってバリーは憧れの存在だった。傭兵団の誰よりも強く、荒くれ共をまとめ上げて先頭で馬を走らせるバリーの姿が、ルーナはずっと格好良いと思った。だから、父親にいつか認めてもらえるように剣の腕を鍛え続けた。今では傭兵団の誰もが認めざるを得ない腕前になった。


 しかし、人生の転換期というのはあるものだ。

 この場合の転換期は、ルーナにとって良くないものだった。その日は、丁度、戦場に行く前の祈りを欠いていた日だった。

 戦場において負ける側に雇われていた傭兵団は、引き際を誤って仲間を多く失いながらがむしゃらに馬を走らせていた。命からがらに、本体と合流する。しかし、ルーナがほっとしたのも束の間だった。バリーの周りが騒がしい事に気がついた。


「親父!」

「ルーナ、手ェ貸せ! バリーの足がやられたッ!」


 バリーの右足のふくらはぎのあたりがパックリと引きちぎれていた。骨の断面が見え、辛うじていくらかの肉がくっついている。血がでないように傷口を布できつく結んでいる。ルーナは急いで肩を貸す。


「......ッてえんだよ……ソが…..あの野郎次あったら…....捕まえて......して、し、死なせて下さい......て言うくらい......やる」


 バリーが苦しみながらもぶつぶつと何かを呟いている。

 

「......こりゃさっさと斬った方がいいな」


 そう言った仲間の顔面をバリーが殴る。


「ザケんな! 医者に…...診せれば治る!」


「無茶言うなって! どんな腕いい医者でもこれはもうくっつかないって! おい暴れんな血が出る。死にてーのか?」


 結局バリーの足は斬る事になった。バリーは最後まで抵抗したが途中で気を失った。



 



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