神VS王

遠くから、黒い何かが羽ばたきやってくる。それは近づくにつれ大きく見えるようになり、姿形もはっきりと見えてきた。


焦げ茶色の表面はテカテカと脂ぎっており、頭部と思しき場所から触覚がのび、不気味に蠢いている。

平べったい形状は、走る速度の高さを感じさせた。


慶喜はその姿に、見覚えがあった。部屋の隅からいきなり出てきて、何度驚愕させられたか知れない…

日本一、いや世界一の嫌われ者。不浄の象徴のような生き物。


慶喜は悟った。あれが、かのゴキブリゴッド…あの素晴らしい曲を創り、この世界に、慶喜の元にもたらした存在であると。


「ゴキブリゴッド様――――!!」


慶喜は物陰から躍り出て、ゴキブリゴッドの元に駆け寄ろうとした。

その目は、その表情は歓喜し感動に輝いている。


ゴキブリゴッドは慶喜の存在に気付いたが、意に介さなかったのか、それとも普通に気づかなかったのか、慶喜の方を一瞥だにせず、何本もある手足をシャカシャカと動かし走り始める。


新幹線を遥かに超える速度で走って来るゴキブリゴッドを前に、慶喜はなおも感動の涙を流しながら走り駆け寄っていた。

間もなく、ゴキブリゴッドの強靭な手足に踏み潰される瞬間まで、慶喜の顔は恍惚としていたのだった。


凄まじいスピードで駆けて来るゴキブリゴッドを、ムカデキングは見止めた。


「来たな、ゴキブリゴッド!ここで会ったが百年目!今度は我が貴様を葬ってくれるわ!」


「被造物の分際で、創造主の朕に勝てると思うてか?!今度こそ貴様を永遠に葬ってやる!」


ゴキブリゴッドは速度を緩めず、ムカデキングに向かって疾走し、激突した。

ムカデキングは衝突した衝撃を受け、大きく宙を飛び、地面に墜落。

おそらく巨大な隕石が落ちるとこうなるであろう、と思われる風な爆破するような音、そして岩や土、埃が舞った。


舞い上がる埃を前に、構えるゴキブリゴッド。濛々と煙る埃の中から、ムカデキングが勢い良く現れ、飛び掛かってくる。


ムカデキングは宙を舞い、長い体を振り回して、うねる下半身でゴキブリゴッドの体を打ち叩いた。

ゴキブリゴッドは後ずさるように、地面を転げ、聳える大岩に激突する。大岩は衝撃で砕けて粉々になった。

しかし、ゴキブリゴッドはすぐに無数の手足で立ち、向き直った。


「さすがは我が宿敵…唯一神を名乗るだけの事はある。」


ムカデキングは心から関心した様に、そう言った。唯一、自分と互角に戦う事のできる相手への、ある種敬服の念であった。


「しかし…貴様が偉そうに神を名乗る事ができるのも、今日までだ!これからこの世界は、このムカデキングの統治下となるのだ!」


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