シン 創世記
初めに神が在った。神とはゴキブリゴッドであった。
神は脂ぎった体を滑らせ、闇の中を蠢いていた。
こうして創られた光は「昼」と名付けられ、闇の「夕」と分けられた。
神は続けて水や地、草木を創造し、鳥や魚、地を這う者、そして二本足で歩き回る人なるものを創造し、よしとされた。
神は言われた
「朕に模り、朕に似せてゴキブリを創ろう。そして世界中の全ての生き物を支配させよう。」
神は御自分に模ってゴキブリを創造された。
神に模って創造された。
オスとメスに創造された。
神はゴキブリを祝福して言われた。
「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。
海の生物、空の生物、地の上の生物全てを支配せよ。」
長い年月が流れ、東の隅にある小さな島で、巨大なムカデが現れた。
かのゴキブリゴッドに負けていないという、それくらい巨大で強靭な体であった。
大ムカデはムカデキングと呼ばれ、恐れられていた。
ムカデキングは人間の肉を好み、眷属であるムカデ達をも人間と同じ程の体長に変えさせる力を持っていた。
ムカデキングは人間共を食い荒らし、その領域は凄まじいスピードで広がっていく。
危機を感じ、当時人間達の首領であったスサノオという者が、ゴキブリゴッドに助けを求めたのである。
ゴキブリゴッドにとっても、ムカデキングは気がかりな存在であった。
唯一神である自分に敵う者などいない、そう確信してはいたが、ムカデキングの巨大で強靭な体躯や眷属のムカデ達を巨大化させる力等を見聞きしていて、その確信が揺らぎはじめていたのだ。
ゴキブリゴッドはかの地に降り立ち、ムカデキングと死闘の末、勝利した。
ムカデキングは怨嗟の声をあげながら封印された。
――我、スサノオの末裔の血が、この地で二人流れた時、蘇るであろう
そう予言し、地中深くへ沈んでいった。
しかしまた、ゴキブリゴッドも無傷では済まなかった。その傷を癒すため、ゴキブリゴッドは誰にも知られぬ場所、南にある島の地中深くで長い眠りにつく。
かの島へ旅立つ前に、ゴキブリゴッドはスサノオに約束させた。
ゴキブリゴッドを変わらず、唯一神として崇め続ける事、そして眷属であるゴキブリ達に従う事を…
――朕の目覚めがいつになるか、正確な時を言う事はできぬ。しかし、再びムカデキングが現れた時、その時は朕も同時に目覚め、再び奴を倒すであろう。
スサノオは恭しく拝し、ゴキブリゴッドの言いつけを守る、と誓った。
しかしゴキブリゴッドが眠りにつくや否や、スサノオは自らと自分の親族を神として崇めさせ、ゴキブリ達を迫害したのである。
そして、唯一神であり、助けてくれた相手でもあるゴキブリゴッドを裏切った事で、スサノオや当時の他の人々は強い罪悪感や恐怖を抱いた。
その恐怖と罪悪感は、子々孫々まで受け継がれ、人類は皆訳も無くゴキブリを恐れるようになったのである。
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