風流蟲譚

ゴキブリゴッドはバサバサッと羽を広げ、飛び上がった。大海原彼方上空を飛行し、あっという間に本州に辿り着く。


世界中のゴキブリ達が、神の、救い主の帰還を知った。

路地裏で、誰かの家の片隅で、森の中で…様々な場所で息をひそめ、人間達の度重なる迫害に屈する事無く繁殖し続けたゴキブリ達は、ようやく救いの時が来た事を知ったのである。


帰還したゴキブリゴッドの力により、世界中のゴキブリ達は二メートル程の体長に巨大化した。

世界中のあらゆる場所で、いきなり何の前触れも無く、体長二メートル程の巨大ゴキブリが現れたのだ。世界中がパニック状態となった。


ゴキブリは、一匹いれば百匹が潜んでいると言う。

例えば日本中の家という家の中は、いきなり体長二メートル程のゴキブリ百匹で埋め尽くされたのである。


家の中で、路地裏で、会社内で大量発生した巨大ゴキブリ達は、これまでの恨みをはらすが如く、人間達に襲いかかり、頭からバリバリと食い殺した。


世界中が巨大ゴキブリで埋め尽くされ、人間達が、ゴキブリの逆襲に悲鳴を上げている。

しかしゴキブリゴッドはそれだけでは、満足できなかった。


ゴキブリゴッドは東京都に着くと、下降し降り立った。東京の街中で、人間を食い荒らしていたゴキブリ達は、ゴキブリゴッドがこの地に降り立ったのを見るや食事の手を止め、恭しく拝した。


ゴキブリ達は、彼らの首領ゴキブリゴッドがどこへ向かい、何をするつもりであるのかを察していた。


ゴキブリゴッドはシャカシャカと手足を動かし、新幹線をゆうに超えると思われる、それ程の速度で走り始めた。

街中の高層ビルやタワー等、ゴキブリゴッドにとってはミニチュアも同然であり、障害物にすらならなかった。街中の建物が、ゴキブリゴッドの通った先で粉々に破壊された。


そうして着いた先は、皇居である。


「憎きスサノオの末裔どもめ!ただの人間という下等動物に過ぎぬ身で、神を名乗る不届きもの!この唯一神、ゴキブリゴッドの裁きを受けよ!」


ゴキブリゴッドによって、皇居は粉々に踏み潰され破壊された。

ゴキブリゴッドは続けて、国中の神社仏閣を破壊し尽くした。海外のそれらは、巨大化したゴキブリ達が襲撃し破壊した。


人間の死骸や瓦礫の山の頂に、ゴキブリゴッドは立つ。夜は既に明けていた。

テカテカ脂ぎった体が、太陽の光に反射して輝き、後光の様になっている。

そこにゴキブリ達が集い、神を仰ぎ見ていた。


「我が同胞、眷属達よ!これまでよくぞ耐えたぞ!これまで地球は、人間という下等動物に覇権を握られていた…しかし、そんな屈辱の日々もこれまでだ!

これから地球は、我々の天下である!」


ゴキブリゴッドの演説に、ゴキブリ達は触覚を揺らしながら喝采した。

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