イースター

「大ムカデ…ムカデキングを倒したのが、スサノオノミコトではないって…じゃあ一体、誰が倒したんです?!そいつを呼んでくださいよ!」


慶喜は健の肩を掴み、前後に揺らしながら訴えた。健は力無く項垂れ、ぽつりとつぶやいた。


「もう来るさ…きっと、今頃目覚めている…」


「何が?誰が?!」


「この国には、長い間一部の人間にしか知らされていなかった秘密がある…その秘密の内容は、代々弘子の実家で保管されてきた。

弘子がスサノオノミコト縁のこの地に嫁ぐ際、我々もその秘密を共有した。

…恐ろしい秘密を。」


「恐ろしい秘密…?何なのです、それは…?正直、今の俺にとってはこの事態が最も恐ろしいのですが?!」


森の中、川の辺りなどに潜んでいたムカデ達が、ムカデキングと川上の婆であった等身大のムカデの周囲にワサワサと集い始め、周囲はびっしりとムカデで埋め尽くされていた。



昭三郎と英二はどうなったのか、慶喜はふと気になり軽く周囲を見渡すと、小さな人影と思しき存在が二つ見える。

どちらもしゃがみ込んでおり、微かに震えて動いているのが分かるのだが、体中にびっしりとムカデが張り付いているのであった。

あのまま、逃げ遅れてあの場にいたら…そう思うと、慶喜はゾッとした。




日本列島の南に、地図にも載っていない無人島がある。


その島は全面を木でびっしりと覆われていて、たとえここに上陸する者がいたとして、木々に阻まれ先へ進む事は叶わないだろう。


周囲の島民達の間で、この島は立ち入ってはならない場所とされていた。


その謎めいた島の中央が音をたてて、大きく盛り上がった。土の盛り上がりはますます縦にも横にも広がって、土や岩、木々を弾けさせて巨大な何かがはい出てきた。

あまりの勢いに、周辺の海も波を高く荒くしている。


現れたそれは、焦げ茶色の堅そうな、脂ぎったテカテカとする表面、平べったいフォルム、そしてフワフワと不気味に蠢くツノの様なものを持っている。

バサバサバサッと羽ばたき、それは島の中央にとまった。


「朕はゴキブリゴッド!唯一神なり!朕の他に神は無し!」


傍から見れば、誰もいない、誰も聞いていないのに、一人でいや一匹で何を言っているのだ、と思うような光景である。

しかし、ゴキブリゴッドのこの声は、世界中の同胞に、ゴキブリ達に聞こえていたのである。

長い間踏みにじられ、迫害され続けながらも繁殖する事を諦めなかったゴキブリ達に、ようやく最後の時が、審判の時がやってきたのだ。


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