復活
夜の神社は灯りも無く、それでも夜目に慣れた事から、普通に歩く分には不自由が無い。
虫の鳴き声だけが響く境内を、CDショップ店員――おそらく健は何も言わず、ズンズン歩き進め、慶喜達三人も彼に続いた。
拝殿の前に、英と川上の婆がいた。強い夜風が吹き、草木の揺れる音がする。英と川上の婆は、伸び放題の髭や髪をボサボサと揺らして、こちらを見ていた。
二人は、健が予想して来る事を知っていたのだ。
これから英は、何をするつもりなのか?昭三郎と健を殺そうにも、現状では不利である。
そう思いながら、慶喜は他人事のように見ていた。
こちらに顔を向けていた英が、そのままの表情で、姿勢でゆっくりと体を傾けていく。
そして、その場に倒れ伏した。
見ると、英の背中には短い刃物が突き刺さっている。
慶喜は、一体何が起きているのか分からなかった。英二も、そして昭三郎と健も同様であろう。
英にこんな事ができる者は、状況から考えて、川上の婆しかいない。
しかし、川上の婆がなぜそんな事をするのか?
慶喜たち四人は、言葉を発する事ができず、凍り付いたように、その場で固まっていた。
川上の婆は蹲り、英の背中に刺された刃物に手をかけると、一気に引っこ抜いた。
鮮血がどくどくと、傷口から流れ出る。
間を置かず、婆は英の背中に何度も刃物を突き刺しては抜くを繰り返した。
その最中の婆の顔は、能面の様に感情が表れておらず、まるで淡々と仕事をこなしているかのようである。
血の海に漂う英の死体を、見下ろす様に立ち上がる川上の婆。慶喜は思わず身構えた。次に攻撃を仕掛ける相手は、自分たち四人の誰かだと考えたのだ。
他の三人も同様の心境なのだろう、緊張し体を強張らせている空気が伝わってくる。
ゆらゆらと、地面が揺れている感覚。最初は気のせいと思っていたが、揺れはどんどん酷くなり、明らかに地震と認めざるを得ない。
皆、困惑しながらも体をその場に伏せたり、しゃがみ込んだりしている。
しかし川上の婆だけが、全く慌てる様子も無く平然と立っていた。
婆は両手を天に向けて広げ、宙を仰ぎ見ている。婆は笑っていた。
「ククククク…スサノオの末裔の血が、我が主の眠るこの地で、二人流された時、真の王者が復活する…!!」
「くそっ…そういう事だったのか!」
健は悔しそうにそう言うと、大木の影に隠れようとしているのか、揺れる地面を這いながら婆から離れ、移動している。
慶喜もそれを追うように、這って行った。昭三郎と英二は、腰が抜けたのか驚愕しながら、その場にへたり込んでいる。
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