出口
「その…弘子さんについても、同様ですか?」
「ええ…あの母の言う事など、おそらく誰も信用しないでしょうが、念には念を入れました。
それに、昭三郎でなくともこれだけ家の者が殺されたなら、健がやって来る可能性もある。どうせならと、インパクトの強そうな演出にしました。
それで、なぜあなたがたにこうした話を打ち明けたか、ですが…」
英は再び、慶喜ら二人をじっと見た。
「どうです、我々の側について、健と昭三郎も殺害しませんか。あの二人はあなた方を利用するだけ利用した後、楽器に変えるつもりですよ。従い続けても、何も良い事はありません。」
それは英に従う事にしても、同じ事であろう。
それに慶喜は、楽器にされる未来を悪いとは思わなかった。あの素晴らしい曲を奏でる楽器に、自分が成れる…非常に栄誉な事である。
そんな死に方ができるなら、願ったりかなったりであった。
「やはりお前らだったか。」
聞き覚えのある声が、いきなり背後から聞こえ、楽器になる未来に恍惚としていた世界から戻り、振り向くと部屋の入口の影から、いつの間にか昭三郎が顔を覗かせていた。
続けてもう一人、顔を覗かせたそれは、CDショップ店員である。
二人とも、これまで見た事も無いような冷たい目と表情で、こちらを、牢の中を見ている。
再び牢内に目を向けると、英は既に抜け穴の中に入っており、頭半分がちょうど見えなくなったところであった。
川上の婆の姿は見当たらず、英より先に抜け穴に入っていったのだろう。
あまりの素早さに愕然としていた慶喜達に、昭三郎は
「早く追いかけましょう!」と言い、牢内に入ろうと駆け寄った。それをCDショップ店員が制する。
「いや、その抜け穴を通り追うべきではない。出口は既に、辿り着いたあの二人によって塞がれているだろう。
もしくは出口付近で、攻撃しようと待ち構えているはずだ。」
「では、一体どうすれば…」
「思いつく場所がある。そこへ行ってみよう。」
そう言うと店員は、地上へ向かい階段を駆け上がっていった。
昭三郎もそれに続き、閉じ込められでもしたら大変、と慶喜達も大慌てで後を追った。
四人は屋敷を出て、夜のジャングルの様な不気味な中庭を通り抜け、昼間同様に人けの無い住宅街を足早に通り過ぎていく。
健はあなたですね?
慶喜は何度か、CDショップ店員にそう声をかけたくなったのだが、タイミングが違う気がして結局何も言う事ができなかった。
やがて四人が辿り着いた先は、あのムカデ明神が祀られているらしい神社、鳥居の前だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます