隠された真相
「なぜ、川上の婆がここに?一体どうやって…」
疑問はもちろん、それだけではない。
この間見た時、明らかに常軌を逸して見えた、この牢の住人が、今夜は違っていた。
髪や髭の伸び放題、風袋は変わらない。しかし口は真一文字に閉ざされ、慶喜達に向ける目は非常に落ち着いており、普通に話が通じそうに見える。
そしてそれは、隣にいる川上の婆もまた同様だった。
牢の住人が手を下した事で、片手に何やら木の棒を持っている事が分かった。棒の先はちょうど、この部屋の電灯スイッチに向けられていた様である。
つまり、この牢の住人が木の棒を使って部屋の電灯を点けたのだ。
慶喜の疑問に答えるように、川上の婆は後ろを向くと、牢内の端の方にある小さな棚のようなものをひょいとどけた。
するとそこに、成人一人入れそうな大きさの穴が、ぽっかりあいているではないか。
「まさか、そこから出入りを?」
川上の婆は同意するように、頷いた。
「色々と知りたい事がおありでしょうが、とりあえず自己紹介致します。」
牢の住人が口を開き、慶喜らは初めて彼の声を聞いたのだが、思っていた以上に若そうな声をしている。
「私はこの薮根家の長男、いや次男と言うべきか?薮根英と申します。」
「…やはり、そうでしたか。」
英は眉をやや上げて、慶喜のその言葉に反応した。
「やはり、と言いますと…少しはこの薮根家について、聞いてはいるようですね?」
「ええ、まあ…」
慶喜はこれまで昭三郎やお嶋から聞いた話を、一通り話し、英は黙って頷きながらそれを聞いていた。
「…なので、妙だとは思っていました。お嶋さんは英さんについて『体が弱いから表に出てこない』という風に仰っていたのに、昭三郎さんは英さんのえの字も出さない。
その上で、この座敷牢…となれば、あなたは英さんである可能性が高いのでは、と。」
英は口を開き、慶喜らを見据えるとゆっくり喋り始めた。
「そうですね…何から話せばいいのか。まず、晃堅と先妻の間に産まれた長男、健は死んでいません。」
慶喜らは、黙って先を促すようにして、じっと英を見ていた。
「健は啓示を受けた後、私の母でもある後妻の弘子と通じ、その結果昭三郎が産まれました。
父、晃堅が認めた上での事です。」
「晃堅さんがお認めになったのですか?!妻と息子が通じる事を?!」
英は苦々しい様子で、頷いた。
「その頃、私はまだ産まれて間もない頃でしたが、後から聞いたところによれば、スサノオノミコトから啓示を受けた健は、非常に神々しく只者ではない様子に見え、故に話す内容にも信憑性を十分に感じ、晃堅は彼をすっかり信頼してしまったそうです。」
「はあ…何を話すか、よりも誰が話すかが重要とは聞きますね。しかし弘子さんも、よく納得したものですね。」
「母は…見ての通り、昔からあの様であったそうですから。」
英は自嘲する様に、また憐れむ様にそう言った。
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