啓示

一室の中、昭三郎とショップ店員の二人に、慶喜達二人。

四人は座布団の上に、向かい合う様にして座っている。


「さて、何からお話しましょうか…」


昭三郎はそう言うのだが、正直な話、慶喜と英二は別に話しても話さなくても、どちらでも良く、関心が無い。


慶喜達の関心事は、あの曲、そしてコンサートだけである。

昭三郎とショップ店員に、繋がりがある事が分かった。そして今日観た、あの素晴らしいコンサートである。

とりあえずこの二人に、藪根家に付いて行けば間違いない。二人はそう判断していた。


「話せば長くなるのですが…」


昭三郎がそう話を切り出したので、慶喜達は少し嫌な気分になった。二人共、さっさと部屋に切り上げて、CDで曲を聴き続けていたかったのだ。

それなのに代わりに関心の無い、どうでも良い話を長時間聞かされる…そう考えると、うんざりした。


しかしこの二人に付いていけば、再びあの素晴らしいコンサートにありつける…それなら少しの辛抱はしようじゃないか、という気にもなった。


「まず、我が家の歴史を少しだけ遡ってお話させてください。私の父、晃堅が三十歳、最初の妻はニ十歳の時、長男の健そして三女が産まれました。

三女は既に他所へ嫁いでおり、今後の話に関りがありませんから忘れてくださって結構です。」


そう言いながら、昭三郎はホワイトボードを引っ張り出してきて、そこに「晃堅、先妻」と書き、線を引いた先に「健」「三女」と書いた。


お嶋の言っていた先妻の産んだ長男は、健というらしい。


「先妻は、五十で先立ちまして。父、晃堅は六十の時に二十歳の後妻、弘子を娶ります。」


昭三郎はボードにある「先妻」の文字にバツを付け、「弘子」を書き足した。


「さてこの頃、長男である健は啓示を受けます。

かのスサノオノミコトから…

以前申し上げた様に、私の母である弘子の実家はスサノオノミコトの末裔です。

そしてこの地がかつて、スサノオノミコトが救った地である事、その縁から健は選ばれたのだろうと思われます。」


神から啓示を受ける、という現実離れした話よりも慶喜が気になったのは、英の存在であった。

この先の話に出てくるのだろうが、弘子は昭三郎の前に、英という長男を出産したとお嶋から聞いた。

しかしスサノオノミコトの末裔の英ではなく、関係の無い健に啓示が下ったのである。


昭三郎は構わず、話を続ける。


「健はスサノオノミコトから、あなたがたも心酔しておられるあの曲を、授けられました。

そして父、晃堅の後妻である弘子を懐妊させるようお命じになったのです。」


昭三郎は両手を広げ、声を張り上げて話し始めた。


「スサノオノミコトはこう言いました。

おめでとう、恵まれた者よ。神である私があなたと共にいる。」




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