再会

慶喜と英二を後部座席に乗せると、乗用車はすぐ発進し、相変わらず人けの無い住宅街を抜けて、左右が雑木林に囲まれた道に入った。

たまに左右どちらかへ曲がったりしているが、風景は代わり映えしない。

道を覚えるのが大変そうだ、と思った。


車に設置された時計を見ると、夜の九時。外は真っ暗である。


目的地には十五分程でたどり着いた。雑木林に囲まれる様にして在る、広場の真ん中に大きな、丸いドームの様な建物が聳え立っている。

月や星の灯りにのみ照らされて見えるその建物は、巨大な円形の化け物に見えた。


「…ここなのか?」


車の中から建物を見て、慶喜は前に居る運転手に尋ねた。

運転手は何も喋らず、ただ頷いた。

不気味ではあるが、このままここでこうしているのも気不味いので、慶喜達二人はとりあえず車から出る事にした。


風の心地良い夜だった。草木の瑞々しい香り、種類の分からぬ虫の静かな鳴き声が聞こえる。


建物の周囲には、他にも乗用車が何台か停まっており、この化け物の様な建物の中にはけっこうな人数が既にいる事が察せられた。


二人は建物に近付いたのだが、入口がどこにあるのか分からない。

しかし、建物のすぐ側まで来た時、いきなり目の前の壁が縦横二メートル程の大穴を開けた。

どうやら、たまたま運良く自動ドアの真ん前に来ていたらしい。


建物の中、扉から数メートル先に人だかりが見える。そしてその人だかりの視線の先には、ステージの様なものが設置されていた。


――まさか…


見覚えのある風景に、慶喜は胸騒ぎをおぼえる。

二人が建物の中へ入ると、自動ドアは音もたてずに閉ざされた。近寄っても開かない。

不安を感じたが、昭三郎の言う「見せたいもの」を見終えたら開かれるのだろう、と自らに言い聞かせた。


人だかりに近付いたのだが、彼らは慶喜達に気付いているのかいないのか、全く関心を示さず、ステージの方ばかりを見ている。

チラホラと、藪根家の葬儀で見た顔を見かける。ここにいる者は皆、藪根家の統治する村の人々らしかった。


再びステージを見ると、そこには四つの人影が間隔を置いて並べられている。


「あっ!」


慶喜は思わず、小さな声をあげた。英二も驚愕し、目を見張っている。


ステージ上には、立つようにして吊るされ、拘束された四人の男女が設置されていた。

その四人は、慶喜達二人に見覚えのある者ばかりであった。


二人が藪根家に来る前に、楽器にするため拘束し車で運んでいた「あ」という男。

同じく楽器にするため監禁していた、歌舞伎町の風俗嬢で、ヤクザの情婦でもあった女。

飛香、そして彼の殺害を依頼したヤクザ者…



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