衝突

飛は車の気配に怪訝な顔で振り返り、そのついでに数メートル先後方にいる慶喜の存在にも気付いた様だった。

しかし、時すでに遅し。車内から放られたバットを慶喜は受け取り、飛に向かって走り出す。車はあっという間に飛のいる所に追いつき、勢い良く彼に体当たりした。


犯罪組織のボスといえども、しょせんは生身の人間、そして老人である。鉄の塊に思い切り当たられたら、それなりにダメージを受けるだろう。


車に当たられ、地面に叩きつけられた飛は、呻きながら伸びている。

そこに慶喜は走り寄り、とどめと言わんばかりに、バットで体のあちこちを殴りつけた。

やがて動かなくなったのを見ると、車を運転していた英二が手錠や猿轡を持って出てきた。


二人は飛を拘束すると、トランクに詰め込み、車を発進させた。



暗い意識の底から、徐々に感覚を取り戻していき、体中の鈍い痛みと共に飛香は目覚めた。


歪んだ、曇った視界が段々とクリアになり、ぼんやりとしか見えていなかった二人の人間の輪郭が、はっきりとしていく。


目の前にいるのは、二人の男。ぱっと見四十程の歳に見えるが、おそらく実際はもっと若いはずだ、と飛は推測する。

長く黒社会に身を置き、アウトローばかりを見てきた飛は、歳より老けた人間を多く見てきた。

なぜだか知らぬが、アウトローは老けている事が多い。


二人の中年に見える男は、見分けがつかない程、似たような顔をしている。

とはいえ、目鼻立ちなどといった顔の造りが似ている訳ではないので、血縁者とは限らない。

醸し出す雰囲気、目付きが淀んでおり、表情は全体的に覇気が無くだらしない感じで、そういった点が実によく似ているのである。


シャツにパンツという恰好なのだが、そんなシンプルな服装であるにも関わらず、非常にセンスが悪く、ダサかった。

ファッションへのこだわり故、ではなくむしろ全く頓着していないためにこうなった、という風なセンスの悪さだった。


飛だけでなく、無法者は外見に気を遣う者が多い。探られたら痛む腹を抱えているのだから、少しでも怪しまれぬ姿を心がけるものである。

もちろん理由はそれだけではなく、承認欲求の強さも影響しているのだが、外面を上手く取り繕えない無法者は、シノギも上手くない事は確かであろう。


そう考えると目の前の二人の男は、黒社会の落ちこぼれである可能性が高かった。

黒社会の人間に決まっている。こんな奴らが堅気なわけがない、飛は確信していた。

おそらく誰かに雇われ指示され動いている、ジャンキーか何かだろう、と。



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