秘密

ゴミ箱をひっくり返したような場所で、女は構わず座った。慶喜らは、さすがにくつろぐ気にはなれず、そのまま突っ立っている。


段ボール箱を畳んだものが無造作に置いてあったので、そこに座ろうと腰を落ち着けると、段ボールの下から何かがものすごい速さで飛び出てきた。

見ると、数匹の溝鼠が走って消え去っていった。


女はマイペースなもので、どこからかスマートフォンを取り出すと、操作しディスプレイをこちらへ向けてきた。


『ああああああああ!最高だ!最高だ!』


映っているのは、一人の老いた男が全裸で横たわっている姿…そこに全裸の女が跨っている。


女はスマートフォンを操作し、映像を近くして男の顔をよく見えるようにした。

慶喜らは目を剝いた。その男は飛香だったのだ。

普段写真で見る、すまして恰好をつけた様子と全く違い、だらしなく弛緩した顔であったから、最初は分からなかったが間違い無かった。


跨る女はスマートフォンを操作している、目の前の女と同一人物である。

映像の中の女は飛香に跨り、糞尿をひり出し、垂れ流している。飛香はそれを顔に受け、恍惚としているのだった。


『どう?お兄さん、気持ち良い?』


映像の中の女は、飛香の事を「お兄さん」と呼んでいる。飛香は彼女に正体を明かしていないのかもしれない。

それはそうだろう。こんな性癖が世間に知れる事は、おそらく彼にとって死ぬ以上に避けたい事であるはずだ。


「私、普段はソープで働いてんだけど、たまに大久保公園でも客引いてんだよね。」


映像が終了し、女はデイスプレイを自分の方に向け、脇に置きながら説明した。


「そしたらまあ、こいつが声かけてきたのよ。普通のサラリーマンみたいな恰好して誤魔化してたから、最初は気付かなかったんだけど、よく見たら…っていう。

めちゃくちゃ金持ってるはずなくせに、すごいケチなんだよねー。毎回、三千円以上を出した事が無いよ。」


三千円で糞尿を垂れ流させ、自らの顔や体にかけてもらう…通常の風俗とは異なるサービスでもあり、相場を知らない慶喜には、それが高いのか安いのか分からなかった。


女は「あのさ」と言いながら、身を乗り出してきた。悪臭がますます酷く感じられる。


「この動画、使えると思わない?大金て、どれくらい入るの?分け前、くれるよね?」


女の淀んだ目が、ギラギラと光りを放ち慶喜らに、その奥にある札束へ向けられている。


「もちろんだ、十億は固いだろう。あんたには、その半分でどうだ?」


女の目が、輝きを増した。

もちろん、そんな金を払うつもりは毛頭無い。手に入る金額も、もっと多くなるだろう。






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