犯罪都市

「あんた達、ここらの人っぽくないね。どっから来たの?」


同じ内容の、自分の話ばかりしていた女だったが、散々耳を傾けてもらい、見せかけであるが共感を示してもらえてようやく気が済んだのか、慶喜らに話を振り始めた。

女はかなり気を良くしており、慶喜らに好感を抱いた様子である。


「大阪から。ある人について、調べるために来たんだ。」


慶喜はなるべく、静かにさりげなく聞こえるよう話した。


「ある人って?」と女は少し身を乗り出し、尋ねた。興味ありげな顔をしている。


「松田組組長、飛香って知ってる?そいつについて、ちょっと調べているんだ。かなりの大金が動く事になる。」


「大金」と聞いた時、淀んでいた女の目が途端に輝きだした。


「あんた達、運が良いよ!そいつ、私の情夫なんだよね!」


女が急に身を屈め、小声で言う。


「…は?」


慶喜だけでなく、スマホを弄りながらも話を聞いてはいた英二も思わず、ディスプレイから目を離し、女の方を見た。


女は冗談で言ったわけではないらしかった。一体何が誇らしいのか、自慢気な様子でふんぞり返っている。


慶喜の頭が、ゆっくりと回転し始め、この状況について考えを巡らせ始める。


――飛香の情婦は確か、銀座のクラブに勤めるホステスと、何かの記事で見た事がある…

他にも複数の女を引っかける事はあるだろうが、それでも…相手は選ぶだろう。


慶喜は、今度は遠慮無く女を凝視した。悪臭を放つ血塗れの女の周囲を、蠅が舞っている。

財力があり、ピンからキリまでの女を選ぶ事ができるとなると、こうしたゲテモノにもたまには手を付けてみたくなる、そんな可能性は否定できなかった。


女に妄想癖があり、語る内容が皆虚構である可能性も大いにある。しかし何の手がかりも無い今、縋ってみても良いだろうという気になった。


慶喜らは、場所を変えて女から話を聞く事にした。


店主は店の奥におり、出てこないし、数える程しかいない客もまた、周囲の話など気にする様には見えないのだが、それでも念には念をいれ用心したいとの事だった。


店を出て、再び地獄絵図の様な街に出る。スローモーションの様に歩き続ける一行、ゆらゆら揺れながらニタニタと笑みを浮かべて突っ立っている、ホステスの様な成りの女、放っておかれたままの死体にカラスが集り、内臓や目玉をつついている。

道端には血や臓物、汚物が散乱し悪臭を放っていた。


数分歩いた後、女は一軒のマンションの前で足を止めた。

十一階建てくらいだろうか?どこにでもある様な普通のマンションだった。


「私ん家、ここなんだけど。話するの、ここで良い?」


女がマンションを指して言う。慶喜らは何度か頷き、同意を示す。

この見るからに常軌を逸した女が、どう見ても普通に見えるマンションに住んでいる事が意外であった。


女に付いてエントランスに入ろうとした時、背後から物凄い衝撃音が聞こえた。





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