ホス狂い

女が何度も繰り返し話す内容によれば、彼女が滅多刺しにしていた男は、彼女が常日頃指名しているホストだという。


女はいわゆるホス狂いだった。大金を使い、ホストクラブで派手に遊ぶ客が、近年そう呼ばれている。

ホス狂いの職業で最も多いのは風俗で、今目の前でマシンガントークを繰り広げる女もまた風俗嬢だそうだ。


女は「私はルイとかリシャールとか入れてた」と何度も誇らしげに言っている。

ルイにリシャール、慶喜と英二は思わず顔を見合わせた。二人共酒の名前やそうした店の事情に疎いため、よく知らないのだが、おそらくそれらは高価な酒の名前で、彼女がそれらを注文した事で指名ホストや店の売り上げに繋がるのだろう。


しかし…と、慶喜は失礼でない程度にと、女の方を盗み見た。


ダークブラウンのロングヘアはボサボサで、山姥を思わせる。たまに女はボリボリと頭をかいているのだが、するとバサバサと白いフケがそこらに落ちる。

顔や全裸の体は返り血に塗れており、何日も風呂に入っていないのか凄まじい悪臭を放っていた。

なりがあまりに酷いため、顔立ちやスタイルの良し悪し、年齢が判断不能だった。

おまけにこの性格の悪さ、感じの悪さである。


こんな女に、金を払ってまで会いたがる男がいる。慶喜にはそれが不思議だった。

蓼食う虫も好き好きという事なのか、それとも仕事の際はマシな格好をしており、性格も猫を被っているのだろうか。


とにかく女は風俗嬢としてガッツリ稼ぎ、ホストクラブで豪遊する事が日課であったそうだ。

しかしある時、つい調子に乗り売り掛けを作ってしまった。その額一千万。

ホストから返済を催促され、ついカッとなり滅多刺しにしたという。


この街では、水商売をやるのも命がけである。


「だいたい何で、私が金払わなきゃいけないワケ?!マジキモい!」


女はそう言うと、再びテキーラを煽った。これで何杯目だろうか、かなりの酒豪である。

この女はかなり異様な次元で生きている、慶喜はそう察していた。

隣でスマホを弄ってばかりいる英二もまた、どうでも良さそうな、疲れた様子で慶喜と同じ意見の様に見える。


なので、正論を諭した所で通じる事は無いだろう。馬の耳に念仏とはよく言ったものだ。

だから慶喜は、適当に相槌を打ち、話を合わせて聞き流していた。


なぜこんな女の話を、そこまでして聞いてやらねばならないのか…もしかしたらこの女が、諦めかけていた計画への、一筋の光になるかもしれない、慶喜はそんな予感がしていたのだ。



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