初仕事

訣別の時

弘子の葬儀は慌ただしく行われ、そして終わった。

形式は晃堅の時と全く同じである。宮司なのか僧なのか分からぬ、おかしな恰好をした者がパフォーマンスを披露し、おそらく晃堅と同じ墓に埋められた。


参列した顔ぶれもまた、前と同様にこの村の者達である。皆、相変わらず顔色や人相が悪い。

同じ家で、夫婦が続けて不審な死を遂げたというのに、誰もそれに疑問を抱いている様子が無い。


そして今回は、川上の婆が現れなかった。

二度ある事は三度ある、と聞く。まさか今度は、川上の婆が?

慶喜はふとそんな事を考えたが、おそらく以前彼女が乱入した経験から、警備を厳しくしたのだろうとも思った。


それにしても、犯人は誰なのか。何を目的にこのような事をしたのか。

警察の捜査も無い中、慶喜は次に殺される者が自分ではない、との保証が無いと考えており、恐ろしく不気味に思うようになっていた。


昭三郎の方を見ると、始終平然とした顔である。

彼は怖くないのだろうか?父母に情が無い事はなんとなく察しているが、それでも次は自分かもしれないという不安はあるはずである。

しかし昭三郎のこれまでの顔色には、苛立ちや煩わしさはあれど、恐怖や不安は感じられない。


ひょっとして、彼は独自に犯人を捜査しており、ある程度目星がついているのだろうか?


そんな事を考えながら、誘われるまま移動し周囲に合わせ、気付けば葬儀は終わっていた。


そして、その次の日現在、PM十一時。慶喜と英二の二人は、新宿歌舞伎町に居た。

葬儀が終わってからさっそく、初仕事に取り掛かるよう昭三郎から指令を受けたのである。


ターゲットは日本最大の規模とされる暴力団、松田組組長、飛香とび かおる

飛香は渡世名であり、本名は三谷孝雄。

分かっているのはこれくらいだった。

自宅なんかはネットで検索すれば、普通に出てくる。しかしこれだけ広く知られているとなれば、警備は厳重であろう。

そして移動中もまた、数名のボディーガードと思われる屈強そうな組員らによって、常に警備されている様だった。


隙が無い。そして武器も無い。慶喜たち二人が手にしている武器は、スタンガン、防犯スプレー、あとは金槌やバールなどの工具ぐらいである。

飛び道具はもちろん無いし、あっても使い方が分からない。


もしかしたら、あのデスゲームはまだ続いているのかもしれない。慶喜はそんな事を思う。

この初仕事はまるで、二人に死んでこいと言っているようなものだった。


「なあ、もうここで終わりにしないか?このまま帰って、藪根家から離れるんだ。」


慶喜はそう、英二に話しかけた。


「そうだな…どう考えても、こんな話は…無茶過ぎる。俺達には不可能だ。」


英二も同意して、そう言った。

そもそも金だって、本当に手に入る保証は無いのだ。これまでの藪根家のやり方を見ていれば、自分達が捨て駒にされる事も不思議ではなく、むしろ当然の事に思える。


あんな変な家に良いように使われるわけにはいかない。自分達には、重要な使命があるのだから…


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