ろくでなしオブ・ザ・デッド

部屋の中にある種々の剣の中、慶喜は大急ぎで試しに手にしたりして、最も持ち易く軽く感じられそうなものを選んだ。


キエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリは既に、見るからに重そうな大きな剣を手にしており、使用人も比較的軽く持ち易そうな剣を構えている。


キエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリは、巨漢のファイターであるはずだった。

初めて慶喜が彼と対面した時、キエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリは正に無敵の戦士の様に見え、自信に満ち溢れていた。

今の彼には、あの雄々しさが見る影も無い。泣きそうな、そして失禁もしていそうな情けない表情、体は縮こまって子供の様に怯えている。


隣に控える使用人の方が落ち着いている。

しかしぼんやりとした目や、呆けたような口元から腹がすわっていると言うよりも、慶喜のいた屋敷の者ども同様、何も考えていない馬鹿だからという気がした。


これからこの二人と共に、あの正体不明な生命体、ゾンビ達と戦わねばならない。そう思うと不安になる。


吠え声、呻き声はますます近く聞こえるようになっている。もう、この部屋のドアを開けたすぐそこまで来ているのかもしれない。


慶喜はあの、巨漢の老爺を倒した時現れたミューズに祈りを捧げた。


――ああ、女神様…どうかあいつらを倒し、逃げ切る事ができますように!そしてあなた様からの使命を遂行できますよう…!


一人、いきなり両掌を合わせ、眉間に皺を寄せながら目を閉じる慶喜を、他の二人はきょとんとしながら見ていた。


慶喜は目を開けると、何かを決意した様な顔で二人の方を向き、言った。


「おい、使用人!ここを突破した後、逃走するために使える乗り物はあるのか?!車とか、馬車とか…」


「ございます!車が…下に、城の外に…」


「よし!じゃあ、あいつらゾンビを切り倒しながらそこへ向かうから、案内しろ!」


「承知いたしました!」


使用人が元気良く返事をしたのとほぼ同じタイミングで、部屋の扉を開ける音がけたたましく鳴り響いた。


――来た!


内臓の無いゾンビ達が、獣の様な唸り声、吠え声をあげながら部屋に入って来る。


ゾンビに関して、確か頭を狙うべきと聞いた事があった。それはおそらく、脳を狙えという意味なのだろう。

しかし、目の前のゾンビ達には脳が無い。まだ人間だった頃、慶喜が取り出したからだ。


――では一体、どこを狙えば…?


あれこれ考えているうちに、まるで肉食獣の様にゾンビが飛び掛かってきた。

キエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリは雄叫びをあげながら、剣を振り下ろした。




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