お祓い

部屋の灯りを消し、窓から入る遠くの家の灯りが少々射し入る程度の、薄暗い中で点々と大木が置かれ火が灯された。


数名の、チャンボルケ・フロシュと似たような風袋の者が太鼓やシンバルを手に座り、けたたましい音を奏でている。


部屋の中央に、チャンボルケ・フロシュは居た。彼の前には、小さな壺が置かれている。その壺の中に怨霊を封じ込めるそうだ。


チャンボルケ・フロシュは楽器の演奏に合わせて手足をくねくねさせたり、たまに飛び上がったりしながら雄叫びをあげている。


オレンジ色の光に照らされた、楽器隊やチャンボルケ・フロシュをぼんやり眺めながら、慶喜は少しホッとしていた。楽器隊の演奏で、ゾンビ達の呻き声も耳に入らなくなっている。


相手がゾンビなだけに、バイオハザードの如く銃や剣で奴らと戦う展開になるのでは、と危惧する所もあったのだ。

そんな我が身を危険にさらすような事は、なるべく避けたい。

アジアンホラー的展開で本当に良かった、そう思った。


チャンボルケ・フロシュの動きが、急にピタと止まった。手をだらんと下げ、足を棒の様に真っ直ぐにして立っている。

その様子に合わせるようにして、楽器隊の演奏も止まった。


「なんだ…?上手くいったのか?」


キエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリがその様子を見て、心配そうに呟いた。


チャンボルケ・フロシュは真っ直ぐ立っているだけだが、顔を正面に向けており、しかしそのぎょろぎょろと見開かれた目は、あらぬ方向を見ている様で、尋常ではない気がした。


楽器隊が静まった事で、再び城の外で吠えるゾンビの喚き声が聞こえてきた。しかも徐々に、音量が大きくなっている気がする。


チャンボルケ・フロシュは暫く突っ立っていたが、やがてゆっくりと屈み始めたので、慶喜達は彼の動きに息をのんで注目する。


彼は屈んで、目の前の壺を両手で抱え、再び立ち上がった。そして、すすと歩き始めたのだ。

そして窓の前に立つと、片手に壺を抱えたまま、もう片方の手で窓を乱暴に開け放った。

ゾンビの吠え声が、ますます大きく聞こえるようになった。



そして、チャンボルケ・フロシュは上半身を窓に寄りかからせ、下を向く姿勢になった。

そしてそのまま体を傾け、窓の向こう側へ消えてしまった。

あっという間の出来事だった。慶喜達はチャンボルケ・フロシュがどういうつもりなのかさっぱり想定できず、見ている事しかできなかった。

そして数秒後、ぐしゃ、という何かが潰れる音が下の方から聞こえた気がした。


急いで慶喜達が駆け寄り、窓から下を見ると、そこには辺りを血塗れにしているチャンボルケ・フロシュの遺体、そしてそれに群がるゾンビの姿があった。




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