ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
城の外に集っていたのは、獣たちではなかった。
もっとおぞましいもの…見た事も無い、生き物だった。
奴らには人間のような顔があるのだが、頭部が無い。眉の辺りから、横に切って離したように頭部がぽっかり空いている。
そして胴体が中央から切り開かれ、何も無い空洞のような状態だ。
そんな人のようで人には見えない者たちが、獣のような呻き声や吠え声をあげて、城の前に集い今にも入って来そうな様子だった。
「あ、あれは…」
慶喜は思い出した。
彼らは皆、慶喜が屋敷の地下で楽器を作るために捌いていた領民たちだった。
人間が、あんな状態で生きられるわけが無い。あれはゾンビに違いない。
彼らはただの人間だったはずだ。なぜ、楽器にはならずゾンビにはなれたのか?
「チャンボルケ・フロシュを呼べ!早く!」
外の様子を見たキエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリが、慌てて使用人に命令した。
使用人は返事をすると、走って部屋を出て行った。
チャンボルケ・フロシュとは何者なのか…名前の短さから察するに、社会的地位の高い者ではないだろう。
しかし、ともかくこの事態を解決してくれる存在らしいと考え、解決策があるのだと、慶喜は少し安堵した。
チャンボルケ・フロシュは数分程でやってきた。おそらく、この城のどこかに住んでいるのだろう。
キエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリのお抱えなんちゃら、というやつだ。
チャンボルケ・フロシュは白いだぼっとしたブラウスに、同じく緩そうな寝間着を思わせる白いズボンを履いている。
黒い髪はもじゃもじゃしており、櫛も入れていなさそうだった。
しかし見開かれた、ギョロッとした茶色の目ははっきりと周囲を見据えており、寝起きなどではないであろう事が察せられる。
「メニショヴァ=クッレルヴォ・ヴスマト=ホレイシオ!そう言えばお前は初めて会ったんだよな。
紹介しよう、このチャンボルケ・フロシュは物凄い力を持った呪術師なんだ!
こいつのおかげで俺は、胃の具合の悪い理由が暴飲暴食であったり、夜眠れない理由が昼寝し過ぎたからといった様々な事が分かり、解決できた!」
キエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリが慶喜の方を見て、お抱えの呪術師を紹介してくれた。
「それはお前、呪術なの?」
慶喜は少々困惑した。暴飲暴食だの寝すぎだの、普通に病院で相談した方が良い案件ばかりである。もっと言えば、医者でなくとも想像がつく判断だ。
この呪術師は、本当に超自然的な力があるのか?と不安になる。
キエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリはそれには答えず…というか聞いていない。
チャンボルケ・フロシュに向き直り「あのゾンビ共を退治してくれ!」と言った。
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