試合
「待っていたぞメニショヴァ=クッレルヴォ・ヴスマト=ホレイシオ!今宵こそ、このキエヌィギョ=マカル・ドゥナエフ=チーフケエポリがお前を倒す!」
この城の主人と思しきこの大男は、名前を探らずともわざわざ自己紹介してくれた。
有難い事だが、やはり名前が長すぎて慶喜は覚える事ができない。
――この世界の住人は、愛称で呼び合ったりしないのか?例えばフィロメーナならフィーフィ、ウスターシュならタータという風に省略した愛称で呼んだりするだろう?!
どうして毎回、毎回フルネームなんだよ?!
この男の台詞から察するに、メニショヴァ=クッレルヴォ・ヴスマト=ホレイシオはこの男と度々武道会で試合をしていた様だ。
そして驚いた事に、この痩せっぽちの、筋トレも満足にできない体のメニショヴァ=クッレルヴォ・ヴスマト=ホレイシオは試合の度に勝利していたらしい。
――筋力は、まず確実に劣る。一体、どうやって勝つ事ができていたんだ?
慶喜は以前、半グレと共に訪れたボロ家に住む老爺と戦った事を思い出す。
あの時、慶喜は急所を、どれだけ鍛えても常人と変わらないはずの部分を狙った。
――この男、キエヌィなんちゃらも同様であるはず…
策は決まった。慶喜は気合いを入れるため、両頬を両手でバチンと叩いて前に出た。
目の前の大男は、片手に剣を持っている。漫画やゲームに出てくるようなデザインのものを。
慶喜も使用人から同じものを手渡されたのだが、持ってみるとあまりの重さに、剣を手にした右側へ体がガクッと大きく傾いた。
持っているのがやっとである。こんな物を振り回して、戦える気がしない。
「もっと軽い武器は無いのか?」
尋ねるが、使用人は困り顔で他に用意は無いと言う。
目の前の大男は、余裕で同じ物を片手に振り回していた。ハンデがあり過ぎる。これで毎回勝っていたなんて、一体どういう事なのか。
仕方がないので、慶喜は両手で剣を横に持ち、構えた。開始と同時に、大男の下の方へ一気に滑り込み、向こう脛を狙うつもりだった。
開始のゴングが鳴る。慶喜は一気に突っ込んで行き、大男の足元へ向かった。
大男もまた、慶喜に上から剣を振り上げ向かって来る。
大男が前のめりで剣を振り上げた所、慶喜は両手で横に持った剣を前に突き出し、向こう脛を狙った。
金属同士の当たる甲高い音と共に、慶喜は弾かれ飛び上がり、数メートル先にどさりと落下した。
顔を上げると、不敵な笑みを浮かべる大男が向こうの方で佇んでいる。
大男の向こう脛は、素早く動いた彼の剣によりガードされたのだ。
――あの巨漢の老爺よりも、この男は戦闘慣れしている。
雑魚を一方的に殺戮するだけだった老爺と違い、この大男はこれまで幾人かのファイターと戦ってきたのだろう。
戦闘のセンスや勘が、あの巨漢の老爺とは段違いだった。
慶喜が逡巡していると、大男は急に顔をしかめ呻き声をあげ始めた。
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