創造
頭に包帯をグルグル巻きにし、寝間着姿のまま慶喜は椅子に座っている。
その椅子は、漫画かゲームに出てきそうな王様か何かのために用意された様な椅子で、宝石みたいなもので装飾されており、ふかふかのクッションで座り心地も悪くない。
場所は屋敷の大広間。慶喜の目の前には、屋敷中の使用人が控えている。
慶喜が彼らを呼びだしたのだ。
使用人たちは皆、「早く終わらないかな」とでも言いたげな顔をしている。
「俺はこれから、新事業を始める。」
慶喜が声を張り上げ言うと、皆困惑したような驚いたような反応になり、各々顔を見合わせた。
構わず、慶喜は続けた。
「そのためには、ある音楽が必要だ。それを作り出すため、皆協力してほしい。」
皆、ぽかんとした顔をしている。
勢いよく言ったものの、慶喜は不安になった。
というのも、新事業とは言ったが金儲けについては露程も考えてはいないからだ。
あの曲を手に入れる事ができさえすれば、聴く事ができればそれで満足だった。
使用人たちに色々と突っ込まれた場合どう答えて誤魔化すか、そこまで考えてはいなかった。
しかし慶喜の不安と裏腹に、事はスムーズに進んだ。
使用人たちは「はぁ…」と同意と取れる返事を気の抜けたように言い、何ら疑う事も無く言われた通りに働いた。
――なんて都合の良い下僕達だ…こいつら、何も考えていない。上から言われたら、それが正しいと信じて疑わないのか。
慶喜が使用人に命じた事、それはこの辺りにいる人間、旅人でも構わないので都合の良さそうな者を拉致して連れてこさせる、というものだった。
使用人たちは一体どんな手を使ったのやら、テキパキと人を拉致して連れて来る。捕らえた人間達を確保しておく牢屋を地下に、即席で作らせた。
こんな物騒な事を命じられているのに、使用人たちに不満げな様子は無い。かと言って嬉しそうというわけでもなく、常日頃の仕事でもこなすかのように犯罪に手を染めていた。
捕らえた人間の一人を連れてこさせ、慶喜は実験に入る。
その囚人は、西洋のおとぎ話にでも出てくる村人のような身なりをしている中年の男で、これから何が起きるのか分からず、しかし決して良い内容ではないと予想し目を恐怖に泳がせていた。
まずは囚人の両手両足を拘束。口には何も拘束具を使っていないのだが、恐怖のあまり声も出ないようであった。
慶喜は用意させていたレインコートを羽織る。
あの夜のコンサート会場を思い出し、胸が高鳴った。あのステージで素晴らしい楽器を、アーティストを創造した人物と同じ位置に、今立っている。
そんな事を考え、暫し陶酔した。
キラリと光る刃物を手に取る。囚人はそれを見て「ひいっ」と悲鳴をあげるが、体は恐怖のため凍り付いているのか動きが無い。
暗い地下室で、周囲には誰もいないはずなのに、慶喜にはこの場所が薄暗いコンサート会場で、目の前には期待に胸膨らませる観客が大勢佇んでいるように見えた。
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