異世界転生
鏡に映っているのは、見慣れた自分の顔ではなかった。
ブロンドの長い髪が波打っているのは寝癖だろうか?
頬がげっそり痩けていたり、落ち窪んだ目がギョロギョロしている点は、自分の元の顔とよく似ている。
白い寝間着は胸元が大きく開いており、そこからはあばら骨の目立つガリガリに痩せた体が確認できた。そういう所も前と同じである。
しかし、ギョロギョロと病的に光る瞳は青く、肌色も異常に白い。
全くの別人だった。人種も違う。
そしてメニショヴァ=クッレルヴォ・ヴスマト=ホレイシオとかいう、自分の呼び名…
――これは…間違い無い、最近流行ってる「異世界転生」というやつだ!
なんて事だ、激しい頭突きで命を落としたと思ったら、何かよく分からない西洋っぽい世界の、何か知らんが金持ちの権力者に転生したんだ!
死んだと思ったら、何もせずリッチなエリートの地位を手に入れていた…普通に考えれば願ったりかなったりである。
――しかもブロンドの白人じゃん、マジョリティ中のマジョリティ!
俺、人生勝ち組~!チートじゃねーか!
いや、しかしまてよ…
今の慶喜にとっては、あの音楽だけが全てである。金も何もかもが、どれだけあろうと、あの曲が手に入らなければ意味をなさない。
「メニショヴァ=クッレルヴォ・ヴスマト=ホレイシオ様!」
鏡の前で一人驚愕し、突っ立っていた慶喜は、メイドの呼び掛けで急遽現実に引き戻された。
「何、呆然としておられるのですか?さあ早く顔洗って、歯を磨いてください。」
何で使用人からこんな横柄に言われるんだと思いながらも、相手の有無を言わせぬ態度と面倒だという思いから、慶喜は素直に顔を洗い歯を磨いた。
――歯がある…やはり、これは俺ではない。慶喜ではない。
本当に異世界転生したんだ。
かなり黄ばんでおり、見るからに汚く、所々抜けたり欠けたりしているが、歯はあった。
歯茎は赤黒く腫れており、歯ブラシをあてると痛みが走る。
しかしこういう場合、あえて歯茎を磨いて血を出した方が悪いものを排出できる気がしたので、しっかり磨いた。
そして磨いているうちに、痛みに快感を感じるようになっていく。
口をゆすぐと、真っ赤に染まった水が吐き出される。
スッキリした気分で再び鏡を見ると、やはりそこには見知らぬ男の姿がある。
よく見ると、白い肌は毛穴が目立ちかなり荒れていた。
歯といい、このメニショなんちゃらは、そうとう荒んだ生活をしていたらしい。慶喜も他人の事は言えないが。
鏡越しに見たメイドが、驚いた顔をしている。
「…どうした?何で驚いてんの…?俺、何かした?」
慶喜が困惑しながら尋ねると、メイドははっと我に返ったようになり
「あ、いえ…メニショヴァ=クッレルヴォ・ヴスマト=ホレイシオ様がすんなりと顔を洗われ、歯までお磨きになられたので…
いつもはどれだけお願いしましても『歯を磨く事が正しいとは限らない』などと仰るものだから。よ、ようございました。」
――ええ………………
こいつ、一体どんな奴だったの。
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